■これまでのGSのビジネスモデルが通用しなくなる可能性も
GSはそれぞれ石油元売り各社のブランド名で事業を展開しているが、基本的にはコンビニと同様、フランチャイズ契約なので、実際にGSを経営しているのは個別の地域企業である。
自動車市場がEVにシフトするのなら、充電ステーションなどの機能を提供することで、EV時代に合った拠点に衣替えするという選択があり得る。だが、GSを充電ステーションに転換するだけではビジネスとしては成立しない可能性が高い。
ピュアEVの場合、自宅の駐車場でいつでも充電が可能なので、日常的な利用の範囲内であれば、そもそもGSのような場所に行って充電する必要性が薄い。EVに懐疑的な人は、「充電ステーションが各地に設置されなければEVは普及しない」と主張しているが、それは単なる想像に過ぎない。
自動車を保有している世帯の実に7割近くが戸建て住宅に住んでおり、集合住宅に住む自動車保有者は圧倒的に少数派だ。戸建て住宅に住む自動車保有者はガレージにコンセントを設置するだけでいつでも充電ができる。しかも個人が所有する自動車の稼働率は極めて低く、大半の利用者が週末に買い物に行くだけの利用にとどまっている。充電ステーションの有無がEV普及の妨げになるとすれば、集合住宅に住み、かつ毎日のように長距離運転する利用者の存在ということなるが、こうした利用者はごくわずかである。
さらに言えば、集合住宅に住み、かつ自動車を保有している世帯の8割以上は集合住宅の敷地内に駐車場があるので、政府がある程度の補助を行えば、あっという前に駐車場へのコンセント設置が進む可能性が高い。かつて日本政府は全国に水素ステーションを大量建設するという青写真を描いていたが、それと比較すればコンセントの設置補助などタダ同然だろう。賃貸住宅については、近年、空室が増加しており、物件保有者にとっては駐車場にコンセントを設置するインセンティブが働くはずだ。
一連のデータから冷静に分析すれば、充電設備の問題がEV普及を妨げる可能性は低く、逆に言えば、充電ステーションとしての機能だけではGSはビジネスを維持できない。
■石油業界の生き残り策とは?
では、これからGSはどのようにして生き残りを図るのだろうか。石油元売り大手の出光興産は、EV時代への対応策として、タジマモーターの関連会社であるタジマEVに出資し、超小型EVを販売する方針を打ち出している。
同社はEVを販売するだけでなく、車載ソーラーシステムや、カーシェア、バッテリーのリサイクルなど、既存のガソリンスタンドを使った幅広い事業展開を計画している。GSをEV社会のインフラに転用することで、傘下にあるGS網の維持を図る戦略だ。
こうしたプロジェクトを進める一方で、元売り各社は経営統合などを通じて事業の脱石油化を模索しており、ガソリンスタンドを通じた販売に依存しない体制に舵を切りつつある。各社の方針次第ではあるが、傘下のGSの業態転換を全面的に支援してくれる保証はない。
各地のGSは地域密着型企業であることが多く、小売店や介護ステーションなど異業種への転換を余儀なくされるところが増えてくるだろう。GSの多くは小売店を併設しているとも言えるので、(過当競争という問題は生じるが)小売業への転換自体はそれほど難しくない。
結局のところ企業規模の違いなど差はあるが、GSが置かれている状況は、自動車ディーラーが置かれている状況に近い。EV化が進んでもディーラーは必要だが、自動運転システムが普及し、所有から利用へと自動車のあり方が変化した場合、ディーラーにも抜本的な改革が求められる。 人口減少社会においてキーワードとなるのは、地域集約と高齢化対策なので、こうした分野を軸にした事業展開が必要なのはGSもディーラーも同じである。
コメント
コメントの使い方