電気自動車大手テスラの株式時価総額が、2021年の年初に7000億ドルの大台を突破した。現時点ではそこから少し下落しているが、この数字は自動車メーカー大手6社の時価総額を足し合わせたものより多い。年間数十万台の自動車しか生産していない中小メーカーが、大手メーカーをはるかに上回る時価総額を実現していることに対しては、「バブルだ」という批判が寄せられている。
しかしながら、経済学の理屈や自動車産業の歴史をよく知っている人にとっては、テスラの株価が高騰するのは何ら不思議なことではなく、当然に予想された事態といってよい。今回はなぜテスラの株価がこれだけ上がるのか、株価が高いことは何を意味しているのかについて解説する。
(本記事アイキャッチ写真はテスラ共同創設者であるイーロン・マスク氏。2021年1月には純資産が1885億ドル(約19兆9,586億円)超に達し、世界一の富豪になったと報じられた)
文/加谷珪一 写真/ZB/DPA/共同通信イメージズ、Tesla, Inc.
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■株価を決める要因は「将来への期待」
投資をしない人にはあまりピンとこないかもしれないが、株価というのは基本的に現時点の利益ではなく、将来の期待利益によって形成される。自動車とは直接関係ない話になるが、しばらくお付き合い願いたい。
株というのは「売り買い」されるものなので、売る人と買う人が同時に存在しないと取引が成立しない。したがって株価も、売る人と買う人の両方が納得できる水準で決まる。
ここに毎年50円の配当が得られる株があると仮定しよう。この株を1000円で買った場合、毎年の利益は50円なので、20年で元が取れる計算となる。20年で元本が回収できる投資商品の値段が1000円であることについて、高いと見るか安いと見るかは人それぞれかもしれない。
では、この株が1万円だったらどうだろうか。人によると言ってしまえばそれまでだが、この株を買う人はほとんどいないはずだ。なぜなら1万円で株を買ってしまうと、配当で利益を回収する場合、200年もかかってしまうからである。元本を回収する前に死んでしまうし、200年後もその会社が存続している保証はない。結果としてこの株が1万円で売りに出されることはほぼあり得ない。
一方、株価が100円だったらどうだろうか。おそらくだが、この株はほぼ一瞬で買われるだろう(筆者もそんな株があったら見つけた瞬間に買う)。毎年50円の配当が得られる株式を100円で買えるのなら、2年で元本を回収でき、その後の配当は丸々利益になるわけで、普通に考えてこんなに美味しい話はない。したがってこの株価が100円で売りに出されることもほとんどない。
最終的にこの株価が500円ならよいのか、2000円ならからよいのかは何とも言えないが、株価というのはこのようにして決まっていく。金融工学では「現在価値」という名称が付いているが、これは小難しく説明しているだけで、基本的な価格決定の根拠は「将来得られる利益」である。
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