毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ イプサム(1996-2010)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】オデッセイとともに「ミニバンの時代」を切り拓いた先駆車! トヨタ イプサムをギャラリーでチェック!
■プレミオベースのミニバンとして登場 「ファミリーカー」を再定義した革命車
今日では当たり前となっている「日本のファミリーカー=セダンではなく箱型の車」という流れを最初期において作り上げ、人々の暮らしに貢献。
しかし2代目モデルが中途半端に大型化されたこととと、自らが作り上げたブームによって競合が増えたことで、いつしかその役目を終えることになった名作ミニバン。
それが、トヨタ イプサムです。
1990年代初頭までは、いわゆるミニバンと呼ばれていた車も実は商用車がベースだったわけですが、1994年にホンダから、当時のアコードをベースとする本格ミニバン「オデッセイ」が登場し、大ヒットを記録しました。
そのホンダ オデッセイに対抗するべく、トヨタが当時のコロナ プレミオをベースとする5ナンバーサイズミニバンとして作ったのが、初代イプサムでした。
初代ホンダ オデッセイは全幅1770mmのボディに2.2L以上のエンジンを合わせた3ナンバー車でしたが、トヨタは日本の道で扱いやすい5ナンバー枠であることにこだわり、初代イプサムの全長と全幅はコロナ プレミオとほぼ同等にし、全高のみを200mmほど高くしました。
これにより初代イプサムは最小回転半径5.5mという、まさに日本の道路で扱いやすい取り回し性能を得るに至ったわけですが、それでいて初代イプサムは、車内の使い勝手においても優秀でした。
「1台でセダンとステーションワゴン、ワンボックスワゴンの3役をこなす車」というのが初代イプサムの開発コンセプトでしたが、出来上がったイプサムはまさにそのとおりの仕上がり。
5ナンバーサイズでありながら室内長2565mm×室内高1220mmと余裕たっぷりで、1列目から2列目へのウォークスルーも容易。
また2列目シートは345mmの超ロングな前後スライドが可能で、シートバックを折りたためば簡易なテーブルとして使うこともできました。
そして3列目シートを床下に収容すれば広大なラゲッジルームが出現する――という、まさに人々のさまざまなライフスタイルに寄り添うような車だったのです。
搭載エンジンは最高出力135psの直4DOHCというきわめて普通なもので(※1997年8月にはディーゼルターボを追加)、サスペンションも前がストラットのリアがトーションビームという、これまたごく普通のものでした。
しかしそれでいて初代イプサムの走りはなかなか俊敏で、昔の箱型車ではしばしば感じられた「かったるさ」「もっさり感」「不安感」みたいなものはない車だったのです。
このように使い勝手が良く、走りもなかなか良好で、そして明るくフレンドリーなイメージも強かった初代トヨタ イプサムは必然的にヒット作に。
初代ホンダ オデッセイとはまた別のニュアンスで、「これからのファミリーカーはセダンではなくミニバンだ!」というイメージを決定づけていきました。
そして2001年5月にはフルモデルチェンジが行われ、「ミニバン・トゥモロウ」というキャッチコピーを伴った3ナンバーサイズの2代目に進化。
が、これが後述する理由によりいささか振るわず、結果として3代目のイプサムは登場しないまま、2010年1月に販売終了となりました。
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