■ディーゼルエンジンの技術をガソリンエンジンに応用
直噴方式は、ディーゼルエンジンでは珍しい技術ではない。圧縮されて高温になった空気に軽油を噴射して燃焼と膨張を行い、燃料の噴射量によって出力を制御する。スロットルバルブはないからポンピングロスが少ないし、高い熱効率だから燃費もよくなるのだ。
この考え方をガソリンエンジンに応用したのが直噴ガソリンエンジンである。
直噴ガソリンエンジンは第二次世界大戦の時にドイツで航空機用に開発された。戦後の1954年にはメルセデス・ベンツの300SLに世界初の直噴エンジンを搭載している。
だが、エンジンを停止するまでガソリンを噴射し続けたため、オイル消費が多く、すぐに姿を消した。だが、90年代になると、空気吸入量の制御を燃焼形態に応じた空気量になるように吸入量の制御を電子制御スロットルで行なう技術が確立されたのである。そこで再び直噴ガソリンエンジンの開発に乗り出した。
ガソリンを噴射するインジェクターを各気筒の吸気ポート、または吸気マニホールドのなかに置く方式が、一般的なポート噴射だ。
これに対し吸入バルブから吸気行程では空気だけをシリンダー内に入れ、ガソリンは吸気行程や圧縮行程の終盤になって直接シリンダー内に噴射して混合するのが直噴ガソリンエンジンである。燃料が極端に薄い状態でも無理のない燃焼を行う超希薄燃焼なのだ。
超希薄空燃比での成層燃焼はスロットルバルブを大きく取ることができる。だからポンピングロスやポンプ損失、冷却損失などが減り、少ない燃料でも一般の燃焼と同じような仕事量を確保できるようになった。
燃料消費は少ないし、メカニカルロスを低く抑えることができるから、排出ガスのクリーン化においても有利だ。
ただし、シリンダー内の圧力が高まった圧縮行程の終盤に噴射を行うこともあるため、噴射には超高圧の燃料ポンプなどを必要とする。微粒化した燃料を噴射するためにインジェクターは高精度のものが必要だ。
また、ピストンも頭頂部が独特の形状の専用品になる。エンジン制御のためのコンピュータも精度がケタ違いに高いものが要求される。実用化を阻んだのは、ひと桁違う精度が要求され、多くの部品が専用設計となった。当然、生産コストがかさむから敬遠されたのである。
■開発を続けてついに登場したGDIエンジン
試行錯誤を繰り返した三菱は、96年夏に1.8Lの直列4気筒DOHCをベースにしたGDIエンジンを発表し、ギャランとレグナムに搭載して発売した。
燃焼室に直接ガソリンを噴射し、空燃比35〜40という超希薄な混合気でも安定した燃焼を可能にしている。電磁式スワールインジェクターは50気圧もの高圧で燃料を噴射し、優れた燃費を実現した。直噴エンジンはポート噴射のエンジンより圧縮比を高められるから出力を出しやすい。それでいて低燃費も期待できるのだ。
三菱のGDIエンジンは、今につながる低燃費エンジンの先駆けとなった。だが、初期のGDIエンジンは希薄燃焼を前提としていたため、一部に燃料の濃いところができ、カーボン(スス)が発生しやすかった。
定期的にオイルを交換しないと、完全に気化されない、混合されなかった燃料が残り、これによってエンジン内部が汚れ、不具合を招くことがあったのである。レギュラーガソリンを入れたことによるトラブルも多い。こうなると高圧ポンプやコンピュータの交換を強いられた。
また、排ガス浄化性能も今一歩だったため、途中からトヨタの技術研究所が開発した後処理装置を装着し、対処している。
三菱は、生産コストがかさむGDIエンジンに惚れ込み、大胆にも「フルラインGDI」戦略をとった。
ミラージュディンゴとディオンをボトムに、ディアマンテやパジェロにもGDIエンジンを搭載したのだ。エンジンも多彩で、1.8Lに続いて2.0LのGDIエンジンを開発し、2000年夏にはパジェロiOに世界初の直噴ターボエンジンを搭載した。また、パジェロなどにはV型6気筒のGDIエンジンを搭載している。
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