■セルシオと北米市場 インスパイア「変節」の2つの背景
ホンダ インスパイアが生産終了となった理由。それはもう日本市場においては明らかに、「あまりにも北米ノリの車になったため、国内ユーザーからはそっぽを向かれてしまった」ということでしょう。
しかし、マークII 3兄弟ほどではなかったかもしれませんが、一部ユーザーからは熱く支持されていた初代アコード インスパイアというなかなかカッコいい車が、なぜ2代目以降の「微妙なセダン」へと変わってしまったのでしょうか?
ホンダというグローバル企業のグローバルな経営戦略として、「北米市場を重視しないことにはどうにもならない」という根本的な事情はあったのでしょうが、それはそれとして、まずは「初代トヨタ セルシオの登場」という理由もあったはずです。
初代ホンダ アコード インスパイアは、トヨタのマークII 3兄弟とはまたちょっと違う「スタイリッシュな高級車」という新しい世界観を打ち出したモデルで、その試みはある程度成功したように思えます。
しかし運悪くというのか何というのか、初代アコード インスパイアの登場とほぼ同タイミングで、「国際派の本格派」といえる高級セダン、初代トヨタ セルシオが登場しました。
アコード インスパイアとセルシオは、直接バッティングするタイプの車ではありません。
しかし「セルシオ」というあまりにも強力で斬新なコンセプトが誕生したことで、初代アコード インスパイアが打ち出した「高級車の新たな世界観」というコンセプトと商品性が、若干ぼやけてしまった――というのはあるでしょう。
それに加えて1989年末の大納会で史上最高値を付けた日経平均株価は、1990年1月から暴落に転じ、その後の数年間でバブルは完全に崩壊。
それに伴って高級セダンや高級スポーツカーの販売は軒並み苦しくなり、その荒波を乗り越えることができた国産高級車は、骨太のコンセプトとクオリティが伴っていたトヨタ セルシオぐらいだった――という事情もあります。
こういった荒波をモロに食らえば、「斬新な高級パーソナルセダン(4ドアハードトップ)」という路線はもうやめにして、巨大な北米市場で確実に売れ、確実に利益を上げられるだろう「居住性重視のセダン」に方向転換しようじゃないか――と考え、そして実際に転換させるのは、企業としては「当然の処置」だったのでしょう。
それについて今さらとやかく言うつもりはありません。
しかしもしも世界の景気が今一度良くなり、ホンダの業績も盤石なものとなったあかつきには――また初代アコード インスパイアのような「粋なサルーン」が、ホンダというメーカーから出てくることを期待したいとは思うのです。
■ホンダ アコード インスパイア(初代) 主要諸元
・全長×全幅×全高:4690mm×1695mm×1355mm
・ホイールベース:2805mm
・車重:1300kg
・エンジン:直列5気筒SOHC、1996cc
・最高出力:160ps/6700rpm
・最大トルク:19.0kgm/4000rpm
・燃費:9.3km/L(10モード)
・価格:226万円(1989年式 AG-i 4速AT)
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