■ドライバーを包むAAMSの泡
朝、志摩のホテルで目覚めてみれば外はマサカの雨。AAMSがあるから大丈夫ですよ、などというスタッフの励ましが遠く聞こえる。
AAMSとはエルバに採用されたアクティヴ・エア・マネージメント・システムの略で、キャビン手前から空気の流れを意図的に上方に上げて空気のカプセルを作ってしまう、という世界初の試みだ。確かにそれなら雨風はなんとか凌げるだろう。
けれども路面が濡れている。815馬力の二駆ミドシップを試す日としては最悪だ。しかも公道である……。
会場に着いても雨は降り続く。半ば諦めモードでモーニングコーヒーを飲んでいたら、スタッフの声が騒がしくなった。「西川さん、雨が止みましたよ!」。
なんと、さっきまでの雨雲が嘘のように消えはじめ、青空が見えてきたではないか! 路面は濡れているけれど、夏の日差しだ、乾くのも早いはず。早速、試乗の準備に取り掛かる。
特徴的なディヘドラルドアを開け(軽い!)、立ったままで乗り込んだ。ちょっとしたコツが必要だ。
案の定、路面はまだウェットだが、悪コンディションだからこそ車体バランスの良否も低速度域でわかりやすい。スロットルワークに気をつけながら(もったいないことに)静々と走りだす。けれどもおかげで大事なことがわかった。エルバの微速域における乗り心地はめちゃくちゃいいということだ。
速度が40km/hを超えてくると、目の前で急に壁がせり上がってきた。AAMSがアクティブになったのだ。ノーズから吸入された空気はクラムシェルから壁沿いに立ち上がり、コクピットの上を通過して、キャビンを泡で包んだような状態となる。
確かに風の勢いが弱まったように思えたし、風の音も和らぐ。妙にトーンが下がるのだ。速度を上げていくと流石にそうも言っていられなくなるけれど、何もないよりはかなりマシなはず。
空気を制御することが最新のレーシングカーの流儀であり、その技術がエルバにおいて大いに活用されたというべきだろう。
■オープンエアで輝きを放つドライビング・エクスペリエンスの本質
撮影のために何度かスカイラインを往復しているうちに、路面もそこそこ乾きはじめた。ドライブモードと変えて、少しだけ真剣に走らせてみる。
ゼロ発進からの加速の凄まじさはもちろんのこと、驚くべきは腰から下のマシンとの強力な一体感だった。人生ゲームでは人型のピンをクルマに差し込んだが、そんな状態になっている気分である。
とにかくボディ骨格が恐ろしいほどに堅牢で、それゆえサスペンションの動きが手にとるようにわかり、あたかも人体とダイレクトに繋がっているかのように思えた。これはフォーミュラーマシンの感覚に近い。
ハーフウェットでちょっと危なっかしい場面でも、クルマの動きが掴みやすく、対処に遅れるということがない。強力な制動力と相まって、自然と速度が上がっていく。怖いくらいに素直なハイパーカーである。
感動したのは、フルスロットル中のサウンドだ。エンジンサウンドではない。
おそらくAAMSで作られたバブルが急激な加速で萎む際に、なんともいえない叫びとなるのだろう。今まで経験したことのない空気の雄叫びに、なるほどエンジン音以外の楽しみもまだまだあるものだと、未来のスーパーカーにも思いを馳せた。
コメント
コメントの使い方