2021年8月に、ホンダを代表するスポーツカー「NSX」が、2022年12月をもって生産を終えることが明らかにされた。日本仕様を終了するのではなく、海外向けの仕様まで含めて生産を終える。
NSXの足跡を振り返ると、初代モデルを1990年に発売して2005年まで生産を続けた。その後、10年以上を経過してから、2016年に2代目の現行型を復活させている。前例のない国産車初のスーパーカーとして誕生したホンダの象徴が改めて生産を終える。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部、HONDA
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日本車を変えたNSXの価値
NSXは2世代にわたって生産されたが、インパクトが強かったのは初代モデルだ。ミッドシップボディのスポーツカーはそれまでにも存在したが、初代NSXは、スーパースポーツカーの資質を備える日本で最初のクルマであった。
その特徴はボディのサイズとスタイルに集約される。1990年頃に登場した新型車は、大半が5ナンバーサイズを基本にしたが、NSXは全長が4430mm、全幅は1810mmとワイドだ。全高は1170mmと低く、エンジンはボディの中央にミッドシップで搭載される。
鋭角的な外観はまさにスーパースポーツカーで「ホンダがフェラーリみたいなクルマを作った!」と感動させた。
V型6気筒3Lエンジンは、ターボを装着しないで最高出力280馬力を達成しており(5速MT)、吹き上がりが抜群に鋭い。ボディはオールアルミ製で、V6エンジンを搭載しながら車両重量は1350kgと軽い。ミドルサイズの運転しやすいボディは、ドライバー本位という当時のホンダの主張を色濃く感じさせた。
これは同時に、軽快によく曲がって一体感を味わえる、国産スポーツカーの集大成でもあった。そのNSXが生産を終える。
ハイブリッドのNSXがなぜ廃止されるのか
廃止の理由をホンダに尋ねると、以下のように返答された。
「これからカーボンニュートラルの時代を迎えることもあり、NSXは今の時代における役割を終えた。そのために生産も終了する。今後は新しい時代に相応しいスポーツカーを模索していく」
ホンダは先ごろ、2040年に販売する車両を電気自動車と燃料電池車のみに絞る方針を打ち出した。ハイブリッド車も含めて、内燃機関から完全に撤退する。そこでNSXも廃止すると受け取られる。
ただし、現行NSXは、エンジンをボディの中央付近に搭載するミッドシップスポーツカーでありながら、前輪に2個のモーターを設置して4WDのハイブリッドを構成している。
WLTCモード燃費は10.6km/Lで、エンジンとモーターを合計したシステム最高出力が581馬力、システム最大トルクが65.9kgmに達する高性能スポーツカーとしては、燃費性能が優れた部類に入る。
従ってこれから高性能スポーツカーが生産を終えても、NSXは最後まで残ると考えられていた。それだけに生産終了のニュースには驚いた。
しかも、現行NSXの発売は2016年だから、日産 GT-Rの2007年に比べて設計は大幅に新しい。2022年に終了すれば生産期間は6年で、日本のスーパースポーツカーでは短命だ。
そうなると現行NSXでは生産台数も限られる。2021年7月の時点で、日本仕様の販売実績はわずか464台、世界生産台数も2558台に過ぎない。先代(初代)モデルは世界生産台数が1万8000台だったので、現行型はその14%だ。
これではどう考えても赤字だろう。現行NSXは前述の新しいハイブリッドを採用しており、先代型の発展型ではない。価格が2420万円とはいえ、世界生産台数が2558台では、大雑把に見て販売総額は約619億円だ。これでは開発と生産関連の費用すら捻出できない可能性がある。
車両の製造コストは、NSXの場合、1000万円には達しているだろう。そうなると2558台分の256億円はどのように負担するのか、という話になる。販売店の影響も小さくない。NSXを扱うパフォーマンスディーラーは以下のように述べた。
「車高の低い(最低地上高は110mm)NSXを扱うために、駐車場の出入口を改修した店舗もある。整備のための設備も新たに導入した。相応のコストを費やしたが、NSXの1店舗当たりの販売台数は2~4台だ。NSXを扱えるのは名誉なことで、もともと儲けようとは考えていないが、販売会社の負担は小さくない」
NSXを扱うために、さまざまな準備を整えて、販売台数が2~4台では辛いところもあるだろう。
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