名車NSXの遺産とホンダに訪れる危機

オデッセイなど名門終売で加速するブランドイメージの危機

2021年いっぱいでオデッセイ、レジェンド、クラリティが販売終了することが決まった。2022年までにホンダの伝統あるフラッグシップモデルが自動車市場から姿を消していく
2021年いっぱいでオデッセイ、レジェンド、クラリティが販売終了することが決まった。2022年までにホンダの伝統あるフラッグシップモデルが自動車市場から姿を消していく

 また、ホンダでは狭山工場の閉鎖に伴い、オデッセイ、レジェンド、クラリティの販売を終了する。ホンダの関係者によると「オデッセイは存続すべきという社内の意見も根強い」というが、廃止の方針を打ち出した。

 仮にそうなると、ホンダはスポーツカー(NSX)、ミニバン(オデッセイ)、セダン(レジェンド)という3つのカテゴリーにおいて、伝統あるフラッグシップモデルを廃止する。

 このなかでオデッセイは、2021年1~6月の1か月平均で1754台を登録した。この販売実績はトヨタのC-HRなどと同等で、売れ筋価格帯が350万~450万円の車種としては決して少なくない。

 オデッセイの販売が大幅に低迷して、生産を終えるために工場も閉鎖するなら理解できる。しかし狭山工場を閉じる影響で、堅調に売られているオデッセイを廃止するのは本末転倒だ。ステップワゴンは狭山工場から寄居工場へ移転するのから、オデッセイも同様にすべきだ。

 以上のように最近のホンダは、大切な車種を次々と廃止に追い込んでいる。この流れが少なくとも日本では、ブランドイメージの小型化や低価格化と結び付いている。

 今のホンダでは、N-BOXの国内販売が絶好調だ。同車の売れ行きは、2021年1~7月に国内で新車販売されたホンダ車の35%を占める。そこにN-WGNやN-ONEを加えた軽自動車全体になると販売比率は56%に達する。国内で売られるホンダ車の半数以上が軽自動車になった。

 この軽自動車の届け出台数に、フィット+フリード+ヴェゼルの登録台数を加えると、2021年1~7月に国内で新車として売られたホンダ車の85%に達するのだ。いい換えれば、ステップワゴン、オデッセイ、シビック、レジェンド、NSXなどは、すべて「そのほかの15%」に片付けられてしまう。

 この傾向は、先代(初代)N-BOXを発売した後の2012年頃から顕著になった。すでに10年近く、ホンダ車のコンパクト化が続いているから、ブランドイメージも変更を受ける。少なくとも30歳以下のユーザーにとって、ホンダはNSXに代表されるスポーツカーのブランドではない。「小さなクルマのメーカー」で、スズキとダイハツに近付いた。

 その結果、国内市場を販売面から見る限り、NSX、レジェンド、オデッセイなどは、廃止されても不思議のない車種になった。ブランドイメージが「小さなクルマのメーカー」では、もはやNSXやレジェンドを用意しても、イメージリーダーカーにもなり得ないからだ。

 ホンダはこの傾向を歓迎していない。決算期などには、販売店ではディーラーオプションのサービス装着をおこない、残価設定ローンに低金利を設定するが、N-BOXだけは対象外だ。

 販売店からは「N-BOXは積極的に売るなと指示されている」という話も聞かれる。それでも人気車だから、販売比率は下がらず、前述の通り国内販売台数の30%を超える。

「ウチはそういうところが弱い」

CR-Vは、2014年に一度廃止されたが、2016年に国内市場に復活を遂げた。復活した理由は、国内のSUVの人気が高まったことと、ヴェゼルだけではラインナップが足りないと判断されたから
CR-Vは、2014年に一度廃止されたが、2016年に国内市場に復活を遂げた。復活した理由は、国内のSUVの人気が高まったことと、ヴェゼルだけではラインナップが足りないと判断されたから

 このような状況を招いた理由は、ホンダでは小型/普通車を積極的に販売する対策が乏しいからだ。シビックとCR-Vはかつて人気車だったのに、販売を低迷させて一度廃止した。それを後になって復活させている。

 復活の理由は、シビックは寄居工場でセダンの生産を開始したことで、CR-VはSUVの人気が高まり、ヴェゼルだけでは足りないと判断されたからだ。いずれも場当たり的な印象を受ける。

 しかも先代シビックは2017年7月に国内販売を再開したが、同年6月には先代フィットがマイナーチェンジを行い、8月にはN-BOXが現行型にフルモデルチェンジした。9月にはステップワゴンとシャトルもマイナーチェンジを実施している。

N-BOX、フィットと人気モデルのモデルチェンジが続くなかで、2017年7月に先代(10代目)シビックが国内市場に復活した。しかし、市場への投入のタイミングが良くなかった
N-BOX、フィットと人気モデルのモデルチェンジが続くなかで、2017年7月に先代(10代目)シビックが国内市場に復活した。しかし、市場への投入のタイミングが良くなかった

 シビックをせっかく復活させるのに、人気車のモデルチェンジで販売店が多忙になる時期を選んだ。この時期をはずせば再び新型車が減るのだから、2018年に導入して、往年のシビックを知る人達の心に響く販売促進をおこなうべきだった。

 先代シビックの復活当初、この点を商品企画担当者や開発者に指摘すると「ウチはそういうところが弱い」と返答された。

 この言葉は、まさに今のホンダの本質と問題点を突いている。ホンダ車はN-BOXやフィットからNSXまで、とても優れた商品だが、市場に投入する方法がダメだ。現行アコードも、日本車でありながら、北米のデビューから2年半も経て国内発売された。

 NSXが廃止された背景には、前述の通り今後の開発を電気自動車と燃料電池車に集約する事情が絡む。商品構成を一新させ、今後は新しい時代に相応しい、つまりエンジンを搭載しない電動スポーツカーを模索する。

 この新しいホンダ車を成功させるには、ホンダが商品とユーザーだけでなく、販売する国や地域の市場にも愛情を持ち、ブランド戦略を入念に行うことが不可欠だ。新型シビックの1か月の販売計画台数は1000台とされる。この目標を2年後、あるいは3年後まで保てることを足掛かりに、市場への取り組み方を見直すべきだ。

【画像ギャラリー】2022年12月に生産終了が決まったホンダNSXの内外装をチェックする

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