ホンダ エディックスが目指した価値観【偉大な生産終了車】

■奇抜すぎ? エディックスが目指した理想と現実

「子どもがまだ幼かった頃に、前列3人掛けベンチシートのクルマで、親子3人ドライブに出かけたことがありました。そのとき味わった家族の一体感は、わたしの記憶のなかにつよく残っています。

それは同じ風景を同じ目線で楽しめ、スキンシップを交わしながら感動を共有できる、とてもしあわせなひとときでした。

このような一体感を生むフロント3席のクルマで、時代に合わせた新しいかたちをつくれないか、と考えたのが開発の始まりでした。

そして、家族や友人、仲間など多人数がいっしょに楽しく移動できる歓びをさらに進め、乗る人が互いの関係によって自由にアレンジできる空間の創造をめざしたのです。

(中略)

こうして生まれたエディックスは、乗る人同士がフレキシブルにポジションを変え、自由自在にコミュニケートできる、まったく新しい6座独立の3×2ミニバンです。

わたしたちは、この空間のもたらす新しい価値が、多くの方々と共有できるものと確信しています」

 上記のカギカッコ内の文章は2004年7月7日、ホンダ エディックスが新発売された際のプレスリリースに記載されていた開発責任者・角田正明氏の言葉です。

 やや長いのですが、重要なことと思い引用させていただきました。

 角田さんのこのような想いと、関係するスタッフ各位の尽力により、ホンダ エディックスという車はたしかに「家族や友人、仲間など多人数がいっしょに楽しく移動できる歓び」が味わえる車に仕上がっていたと思います。

 ただ、オフセットされた中央のシートに子どもが座る場合はいいのですが、成人がそこに座ると、肩まわりや肘のあたりがかなり窮屈であるとの印象は否めませんでした。

リアビュー。2004年7月の登場後、2005年12月・2006年11月とマイナーチェンジを重ねるも、売れ行きは好転せず。2007年12月の特別仕様車が最後の大きな動きとなった
リアビュー。2004年7月の登場後、2005年12月・2006年11月とマイナーチェンジを重ねるも、売れ行きは好転せず。2007年12月の特別仕様車が最後の大きな動きとなった

 もちろん成人6名のフル乗車ではなく「成人3~4人」で乗る分には、センターシートはフレキシブルに格納してしまえば問題はないというか、むしろ快適かつ便利に使えるミニバンではありましたが。

 しかしそれ以上に、結局はエディックスの「攻めたパッケージング」が、日本の一般的なミニバンユーザーには受け入れられなかった――というのが、この車が“敗退”した理由なのでしょう。

 すでに冒頭で述べましたが、5ナンバーサイズの3列シートミニバンを好む層からは「車幅が広すぎてちょっと……」と敬遠され、豪華でビッグな3ナンバーサイズミニバンを好む層からは「なんだか中途半端な寸法だなあ……」と思われてしまったのです。

 車選びに関しては保守的な考えを持つ人が多い日本の市場で、エディックスのような「攻めた車」を新規リリースするというのは、なかなかリスキーというか、「負ける可能性も高いことが最初からわかってる試合」みたいなものです。

 そんな“試合”にもあえて臨んだのが、ホンダという自動車メーカーの素敵なところであり、「らしさ」だったのでしょう。

 そして今後も、いろいろ難しい部分もあろうことは承知していますが、ホンダというブランドにはそんな“挑戦”をたまにはしてもらえたら、いち自動車ファンとして、いち日本人として、非常に嬉しく思うのです。

■ホンダ エディックス 主要諸元
・全長×全幅×全高:4285mm×1795mm×1610mm
・ホイールベース:2680mm
・車重:1440kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1998cc
・最高出力:156ps/6500rpm
・最大トルク:19.2kgm/4000rpm
・燃費:13.0km/L(10・15モード)
・価格:201万6000円(2004年式 20X)

【画像ギャラリー】ホンダのチャレンジ精神結実の一台 エディックスをギャラリーでチェック

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