■ワインディングベストの「タイプS」
タイプSの登場は1997年のマイナーチェンジになります。この時マニュアルトランスミッションのエンジンが3Lから3.2Lに拡大され、トランスミッションも5速から6速に変更されます。
じつはこの排気量アップは、すべての面で整っていたNSXのバランスを、ある意味崩すことになり、再びバランスを整えるだけでももの凄い労力が必要だったのだそうです。
この時にスポーツグレードとして設定されたがの「タイプS」です。これは憶測ですが、排気量アップによってバランスを整え直していく過程で、よりスポーツドライブに適した足回りのセッティングが浮かび上がってきたのではないでしょうか。
タイプRの開発とテストによって広がった知見によって、タイプRほど振り切ったセッティングではなく、スポーツドライブをするのに適したファインチューンのノウハウを手に入れていたということです。
具体的には、足回りは引き締められていましたが、ハードというほどではなく、ダンパーの効きがしっとりとした乗り味を作り出していて、かつクルマの無駄な(細かな)動きを極力抑え込んでいる仕上がりでした。
タイプRの乗りやすさは硬く引き締められた足回りやブッシュ類のチューニングによって、ステアリング操作やアクセルのオンオフによる荷重変化がダイレクトにクルマの動きに現れる点でした。
正確な操作は要求されますが、その分操作が正確にクルマの動きに反映されるので、(ちゃんと操縦できれば)クルマとピタリとシンクロしたような一体感を得ることができました。
タイプSは、セッティングをそこまでシビアに突き詰めておらず、タイプRを走らせた時に、楽しいと思えたり、運転しやすいと感じる要素を抽出して、ストリートのスポーツドライブシーンや、ある時はサーキットでのスポーツドライブで楽しめるように味付けしていたのだろうと思います。
実際に試乗した時の記憶を思い返してみても、足回りは硬く引き締まっているのに、ゴツゴツしたところがなく、クルマが無駄な動きをしないのを強く感じました。
また3LのNSXでは時々現れていたハードコーナリング時のホイールスピンのしやすさも、イン側のタイヤがヒタッと路面に接地し、ダイナミックな走行シーンのなかでの接地性が高くなっていると感じました。
軽量化は標準仕様1340㎏に対してタイプSは1320kgですが、これは正直なところわかりませんでした。ただし、レカロ製のフルバケットシートのホールド性のよさからくる運転のしやすさや、BBS製の鍛造アルミホイールの軽量化によるフットワークの軽さはドライブフィールにちゃんと表れていました。
■現行NSXは本当にココで終わらせていいのか?
そんな初代NSXタイプSの立ち位置をもとに、2代目NSX最終モデルのタイプSを予想してみると、ホンダレーシングをイメージさせるような味付けではなく、もう少しストリート寄りのセットアップになるのだろうと思います。
ただ変更内容はかなり過激です。レースカーであるNSX GT3 Evoと同じターボチャージャーを採用し、ハイブリッドの要となる2次バッテリーの出力アップが図られ、システム最高出力608馬力。システム最大トルク667Nmを発揮。さらに9速DTCは変速スピードを50%アップしているといいます。
さらに軽量アルミホイール+ピレリP-ZEROや空力性能を見直したエクステリアデザイン、スポーツハイブリッドSH-AWDのリセッティングによって、運動性能をアップ。鈴鹿サーキットのラップタイムで従来のNSXより2秒速いということです。
資料を見る限り、GT3用ターボの採用やシフトタイミングを50%短縮したミッション制御を勘案すると、かなりシャープでスポーティな味付けになるのだろうと思います。
現行NSXが、出来がよすぎて退屈と感じるくらい高性能をたやすく安心して発揮できることを考えれば、タイプSはより刺激的な楽しさに満ちたスーパースポーツカーになることは想像に難くありません。
唯一不満なのは、これがNSXの最終モデルとなってしまうことです。
ハイブリッドスポーツカーというのはまったく新しいジャンルで、単純にエンジンパフォーマンスだけでなく、モーターを含めたパワーユニットの性能は、バッテリー容量やプログラムによって大きく変わりますし、ましてNSXは3モーターシステムによって操縦性にも深く関与していますから、パフォーマンスをどこに据えるかはエンジニア次第なところがあります。
もっと言えば性能の限界はまだ誰にも見えていません。その先の展開として、新しい解釈のタイプRなんて妄想も容易に膨らむわけで、タイプSをもってNSXの最終モデルとしてしまうのはあまりに残念でならないということです。
コメント
コメントの使い方