■セダン飽和状態のなか なぜキャバリエが投入されたのか?
トヨタ版のキャバリエがまったく売れないまま廃番となった理由。それは要するに「車としての魅力が乏しかったから」というひと言に尽きるでしょう。
トヨタはこの車に「181万円から」という戦略的な価格を設定し、前述のとおりプロモーションも頑張ったわけですが、とはいえ日本の多くのユーザーはキャバリエという車に魅力を見いだせませんでした。
当時の人々の心理は「極端に悪いわけじゃないんだけど、だからといって積極的に選びたくなる理由もない」といった感じだったでしょうか。
しかし、そんなことは――つまりキャバリエを右ハンドル&右ウインカー化して輸入し、プロモーションに力を入れたところで、大して売れはしないだろうということは、当のトヨタもよくわかっていただろうと推測されます。
それではなぜ、トヨタはわざわざGM製キャバリエの日本仕様化に全面協力し、OEMではあるものの「自分のとこの車」として大々的に売り出し、広報活動やプロモーション活動も頑張ったのでしょうか?
……これは筆者の単なる推測ですが、トヨタは「我々が日本という国を背負っているのだ」という強い自覚がある企業だからこそ、火中の栗を拾いに行ったのです。
渋々だったかもしれませんが、結果的にはプライドを持って“汚れ役”を引き受けたのです。
本稿の冒頭付近で述べたような日米自動車貿易摩擦が長らく続き、もしもそれがさらにエスカレートしたら、日本という国家がちょっと大変なことになるかも――というときに、永田町方面からトヨタに依頼があったのか、トヨタが自発的に動いたのかは知りませんが、いずれにせよトヨタは「不満を爆発させそうな米国のガス抜きを行う」という役割を、見事にやりきりました。
単に少数を輸入してテキトーに売ってるふりをするのではなく、しっかりと予算を使い、大々的な輸入とプロモーションをしばらくの間は継続したのです。
そこまでやってもキャバリエというか米国車が売れないのであれば、それは日本の不公正な態度やシステムのせいではなく、「アメリカ車およびアメリカの自動車メーカー自身のせいである」ということが明白になります。そうなれば、米国も振り上げた拳を降ろさざるを得ません。
筆者は先ほどから勝手な推測だけでモノを言っていますが、おそらくはおおむね正しい推測なのではないかと思っています。
トヨタは、日本国および日本国民のためにキャバリエを輸入したのです。
「その節は、本当は嫌なはずのことを粛々と行っていただき、誠にありがとうございました」
もしもどこかでトヨタ キャバリエの元関係者にお会いすることがあったなら、筆者はそう言いたいと思います。
■トヨタ キャバリエ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4600mm×1740mm×1355mm
・ホイールベース:2645mm
・車重:1310kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、2392cc
・最高出力:150ps/6000rpm
・最大トルク:22.1kgm/4400rpm
・燃費:9.8km/L(10・15モード)
・価格:205万円(1996年式 2.4Z)
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