日本を空から守る、まさに「空の精鋭」が航空自衛隊。今回、航空自衛隊入間基地内に潜入して密着取材する機会を得て、輸送ヘリのCH-47J(チヌーク)の同乗レポートをお届けしよう!
文/フェルディナント・ヤマグチ、写真/平野 学
■タンデムローター形式の輸送ヘリ、チヌークとは!?
短命で終わってしまったベストカー本誌での連載、「ドライバーズインタビュー、同乗道場」であるが、今回はシリーズの最後っ屁として特別編をお届けする。
「チヌーク」の愛称で知られる航空自衛隊の大型ヘリコプターCH-47J搭乗記である。災害救助などで活躍する機会も多いので、報道で目にされた方も多いだろう。機体の前後に大型のローターが据えられた、タンデムローター形式の輸送ヘリである。
開発したのはボーイングバートル社(現ボーイング社)。原型機となるモデルA型は、1962年にアメリカ陸軍輸送ヘリコプターとして(つまりはアメリカのベトナム戦争への本格的な軍事介入に合わせて)就役し、以来B型、C型と順次性能向上と近代化が図られてきた。
御年59歳。サラリーマンであれば来年には定年を迎える年回りだが、改良に改良を重ねて、今でも現役バリバリ最前線で活躍しており、現段階では代替機が存在しない名機である。日本では正式採用以来川崎重工がライセンス生産を行っており、航空自衛隊と陸上自衛隊に累計で100機もの機体が納入されている。
今回搭乗させていただいた航空自衛隊は、現在15機のチヌークを保有している。搭乗前には、パイロットの溝口希(のぞむ)3等空尉からじっくりと機体の説明を受けた。
■チヌークには前後にふたつのローターが配置されている
「チヌークとふつうのヘリとの一番の違いは、タンデムローターという、大きなローターが前後にふたつ配置されている形式であることです。前後のローターが逆方向に回転することにより、機体の回転を防いでいるんです。
ローターがひとつだけのヘリは、機体後部にブームが伸びていて、その先端に垂直方向に回る小さなプロペラが付いているでしょう。あれがないと、機体はローターの回転に合わせてクルクルと回ってしまうんです。
出力はターボシャフトというジェットエンジンの一種であるエンジンから軸出力を得ています。これが後ろのローターの付け根の部分に2基備わっています。前のローターにはエンジンがなくて、後ろから太いシャフトを介して動力を伝えています。
そうそう、自動車のドライブシャフトと一緒ですね。自動車の場合は床下ですが、チヌークは機体内部の天井部分に軸が通っています。
エンジンは片方が止まってしまっても飛行できるほど強力なものです。チヌークの馬力ですか? うーん。これはちょっと私の口からは申し上げられません。ネットなどにたくさん情報が出ているので、そこで調べてください。間違っているものも多いですから注意してください(笑)。
ローターの部分に注目してください。前後お互いのローターが交差しているでしょう。ギアを介して回っているから、ピッタリ同調して回転するんです。だからローター同士が衝突して破損してしまう、なんてことは絶対にないんです。
機体を見ると、左右にエラが大きく張り出しているでしょう。中には燃料タンクとアビオニクス(電子機器)が入っているのですが、旧型にはこのエラがありませんでした。航続距離が格段に伸びたのですが、操縦は少し難しくなりました。
なぜかって、ローターが自分で起こした下向きの風を、このエラ部分が受けてしまうからです。空中の一定の位置にピタッと止まるホバリングの際や、空中でゆっくり「回れ右」する時などには古い機体よりも神経を使いますね。まあ、これは慣れの問題ではあるのですが。
それでは機体に乗り込んでもらいましょう。ヘルメットを必ず着用して、このヘッドセットを付けてください。このスイッチを押すとマイクが入ってフェルディナントさんの声も聞こえるようになります。ただ、今日は基地内上空で訓練飛行を行いますので(我々は訓練中のヘリに乗せていただいたのだ)、管制官と常に連絡を取り合って飛行しています。
凄いとか怖いとか余計なことは独り言でお願いします。マイクを通さずにお願いします(笑)。」
■パイロットと空中輸送員には最高レベルの練度が必要
我々を乗せたチヌークは、爆音を轟かせながらスルスルと滑走路を走り出した。所定の位置までは飛行機のように地上を走って行くのだ。エンジン音がいよいよ高まり、機体がブルブルと振動する。チヌークの大きな機体がフワッと浮き上がった。ものすごい迫力だ。パイロットがなにやら管制官とやり取りしている。基本は英語なのだが、時折日本語が交じる。
空中で機体をピタリと停止させ、右側のドアを開ける。強風が吹き込んできた。油圧作動のホイストによる救助訓練だ。地上約50mから30kgの重さのパッケージを吊り上げる。機体が揺れれば要救助者の命に係る。パイロットにも空中輸送員にも最高レベルの練度が要求される。先ほどまでにこやかだった隊員諸兄がピリピリと緊張しているのがわかる。
実に得難い経験をさせていただいた。航空自衛隊入間基地の皆さま、今回は大変お世話になりました。ありがとうございました。
【画像ギャラリー】半世紀以上飛び続ける信頼の翼CH-47Jチヌークの雄姿を航空自衛隊入間基地でチェック!!(14枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方