タクシーでお馴染みのコンフォートをベースに3Sエンジンとスーパーチャージャーを組み合わせたコンプリートカーをTRDが生産していた。
その名はコンフォートGT-Z。2Lエンジン+スーパーチャージャーのFRレイアウト5速マニュアルは実は結構刺激的だった。
文/加茂 新、写真/TRD
見た目タクシー、中身ロケット
ちょっと前まで教習車といえばこればっかり、小型タクシーもこればっかり、だったのがトヨタ・コンフォート。「ディス・イズ・とっつぁんセダン」とも言うべき箱型のボディで、おおよそスポーツカーとは縁遠い存在だった。
現在ではジャパンタクシーなどFFレイアウト車も増えたが、15年ほど前まで教習車とタクシーはFRセダンが一般的だった。メンテナンス性の高さとタフさなどを考えるとシンプルな構造のFRがベストだったのだ。
そこで登場したのがコンフォート。80マークII系のボディを使って1995年に発売。タクシー用や教習車用のほかに、一般販売グレードも存在していた。ちなみに中型タクシーはこれをベースにホイールベースを延長したクラウンコンフォートが使われていた。
そんな2000年台初頭。トヨタのラインナップでは、80スープラは2002年に生産終了し、残るスポーツ系モデルはアルテッツァだけとなっていた。そこにトヨタテクノクラフトが企画し、2003年に発売したのがコンフォートGT-Zだ。
コンフォートのエンジンは1.8や2Lのガソリンや、2LのLPGなどいくつかの種類があったが、2L+DOHC16バルブの名機3S-FEを搭載。小倉クラッチ製のスーパーチャージャーTX07をセット。
ノーマルで140ps/19.0kgmほどのエンジンスペックを、0.3kg/cm2の最大過給圧で補い、160ps/22.5kgmまでパワー&トルクをアップ。
車重に対してアンダーパワーなコンフォートを、よりスポーティに仕上げるべく、大掛かりなエンジン換装とスーパーチャージャー化が行われた。
ミッションはフロア5速マニュアルを採用。オプションでTRD製強化クラッチ、LSDなども用意され、本格的なスポーツ走行にも対応できるスペックが用意された。
痺れるほどの渋さでありながら超ホット!
エアロは80年代風に仕上げ、エアダム風フロントバンパーにウレタン風リアスポイラーを組み合わせ、ホイールはワタナベの8スポークで仕上げる。当時でさえ泣かせる演出がされていて、今見ると渋すぎるほどのかっこよさである。
この渋さは現在なら80年代風カスタムとして理解できるが、2003年当時は80年代が終わってからまだ十数年。当時は渋いと言うよりも「ダサい」と取られてもおかしくない時代であるが、そこに勇気を持って出したトヨタテクノクラフトの気合いにはあっぱれである。
TRDのスポーツサスペンションは減衰力4段階調整式で、ブレーキパッド&リアシューもTRDのスポーツモデルをセット。専用タワーバーに、専用スタビライザーまで装着された。
マフラーも純正マフラーメーカーに製作を依頼した専用品で、そのサウンドはスポーティなものだった。室内もTRDスポーツシート、TRSスポーツステアリングホイールでまとめ、ちゃんとしたスポーツカーになっていたのだ。
価格は227.0万円~291.8万円。車重は1320kg。10/15モード燃料消費率は11.9km/L。燃料はプレミアムガソリンで、定員は5名。当時の物価を考えても、かなりバリューなプライスだった。
「新車のスポーツモデルがない」なんて声を聞いたであろう、自動車メーカー系カスタマイズブランドが、FRセダンをベースにエンジンを換え、スーパーチャージャーを装着してパワーアップさせ、スポーツカーとして発売してしまったのがコンフォートGT-Zなのだ。
こんなホットモデルを当時関東のトヨペット店で売っていたというのが最大の衝撃。架装車両のため登録は持ち込み扱いとなるが、1年または2万kmまでトヨタテクノクラフト架装部分の保証が付き、ディーラーのサービスが受けられるクルマだったことは当時としては画期的である。
2003年といえばすでに21世紀である。21世紀にトヨタテクノクラフトの起こしたひとつの奇跡とも思えるコンプリートカーがコンフォートGT-Zだったのである。
勝手な推測になるが、こんなホットなコンプリートカーをディーラーで買え、安心して乗れるシステムは現在のマークX GRMNやVITZ GRMNなど、GAZOO Racingの特別仕様車の流れと同じ。その礎となったのがコンフォートGT-Zではないだろうか。
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