もはやLPGのタクシーは電動化時代に生き残れないのか?

 政府(主に経済産業省を主体とする各省庁)が2035年、東京都が2030年に純ガソリン車の新車販売を禁止し、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)などの電動車にする方向で調整する方針を明らかにした。

 この政策決定は、菅義偉内閣総理大臣が2020年10月26日に行った施政方針演説で「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す」方針表明を受けたものだ。

 この電動化方針には、軽自動車も含まれることが明らかになっているが、気になるのはあまり言及されてないLPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)を使って走っているタクシー。最近ではトヨタジャパンタクシーが大幅に増えているのを肌で感じる。

 そこで、改めてタクシーにはどのような車両が使われているのか、タクシーの現状を解説するとともに、今後LPGタクシーはどうなるのかを探ってみた。

文/岩尾信哉
写真/トヨタ 日本交通 MK 日の丸交通

【画像ギャラリー】マイナーチェンジで大幅に進化したJPNタクシーの詳細を見る


「2050年カーボンニュートラル」はLPGタクシーには逆風?

クラウンコンフォートは1995年12月に販売開始され、2018年2月に販売終了。クラウンという名が付いているが、ベースはX80系マークIIセダン。ボディサイズは全長4695×全幅1695×全高1515mm。LPGエンジンは2L直4、最高出力は116ps/19.3kgm
トヨタコンフォートは1995年1月から販売を開始。2009年1月に一時生産中止し、2011年に生産を再開、2017年5月25日に受注受付を終了し、2018年1月まで生産した。ボディサイズはクラウンコンフォートよりも全長が100mm短い全長4590×全幅1695×全高1525mm。2L、直4のLPGエンジンは116ps/19.3kgm

 まずは政府が掲げる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン政策」として、各省庁と連携して進めている経済産業省製造産業局・自動車課に、LPG車両、特にタクシーへの対応、具体的にはタクシーを含むLPG車(ハイブリッド車を含む)の今後の扱いについて訊ねてみた。

 トラックや商用車、タクシーなどの扱いについては現時点で明確ではないにしろ、タクシーに関しては、定義として乗用車に含まれるので、EV、PHEV、FCV、HVとして電動化政策の対象となるようだ。

 経産省では乗用車に比べて排ガス量が多いトラックなどの商用車などを含めて、電動化の施策を決定する時期について2021年夏までに明確に示す方針。

 「各業界と調整しながら細部にわたって改定を進める」(同課担当者)とのことで、おそらくLPG車とハイブリッドの関連性など、タクシーを含めた商用車の扱いについては複雑さが伴うために、慎重に事を進めていく方針であると推測される。

 国土交通省も前記の電動化された次世代自動車について、トラック・バス・タクシー事業用車両の導入支援等を実施していくとしている。

LPG車のタクシーはどうなるのか?

Y31型セドリックセダンの営業車は1987年6月に販売開始され、2014年12月に受注分の販売が終了。グレードはクラシックSV、スーパーカスタム、カスタム、オリジナル。ボディサイズは全長4690×全幅1695×全高1445mm。LPGエンジンは2L、直4、85ps/17.3kgm

 乗用車全体の販売では現状でハイブリッドがマーケットでの主役であることはいうまでもなく、タクシー車両の現状がどうかといえば、大枠としては2017年10月に発売されたトヨタジャパンタクシーが確実に増加。

 セダン型のこれまで長く使われ続けたクラウンコンフォートやトヨタコンフォート、クラウンセダンのLPG車両は2018年1~2月には新車販売が終了しており、街を走っている車両も徐々に減っていくことになるだろう。

 いっぽうで、一部のタクシー運営会社では、シエンタのガソリン仕様車やハイブリッド仕様車をガソリン/LPGのバイフューエル仕様に改造する例もあるようだ。さらにセダンを好む顧客への対応として、カムリ(ガソリンハイブリッド)が少数派ながら見られる。

 LPGの大きなメリットはなんといっても燃料代の安さだ。

 2021年2月初旬現在の全国平均小売現金価格(石油情報センター調べ)を見ると、レギュラーガソリンが139.6円、ハイオクガソリンが150.5円、軽油が120.1円。そして軽油からさらに約32円も安いのが、オートガス(LPG)の88.1円(東京23区現金価格)である。もはやオートガスの安さは圧倒的である。

 ちなみに、タクシー車両のLPG仕様への改造・販売を手がける業者では、LPGの燃料系(燃料タンク搭載含む)の改造費は70万円前後のようで、燃料コストの低さを考えればLPG仕様への改造コストも元が取れると考えることもできる。

 このような動きが出てきた理由は、ジャパンタクシーの価格は標準グレードの「和」が333万8500円、上級グレードの「匠」が356万4000円と、設計時にベースとなったシエンタのハイブリッド仕様が222万7500円~258万円であることを考えれば、ジャパンタクシーが高価と捉えられていることだ。

 LPGを利用できるバイフューエル仕様への改造の手間をいとわなければ、タクシー車両としてギリギリ成立しそうだ。個人的にはユニバーサルデザインを採用したジャパンタクシーのコンセプトが好ましいが、ビジネス面では難しい部分はあるようだ。

大手タクシー企業に訊くLPG車の実情は? LPGハイブリッドが優位:日本交通

現在タクシー車両として販売されているトヨタのJPNタクシーは1.5L、直4 LPG仕様エンジンを使用したハイブリッド(ベースはシエンタ)。価格は標準仕様の「和」が333万8500円、上級の「匠」で356万4000円、JC08モード燃費は19.4km/L、WLTCモード燃費は16.8km/L

 ここからは、具体例として東京の2社と京都の1社の大手タクシー企業が運行させている車両と燃費について概況を確認してみるとともに、今後の車両の導入方針について訊ねてみた。

 まず、東京の最大手のタクシー会社のひとつである日本交通に、今後の事情によってはLPGハイブリッドのトヨタジャパンタクシーからガソリンハイブリッド車への仕様の移行はありえるのかと訊ねると、「現時点で予定はありませんが、今後、環境面や経済面等でタクシー用として適する車両が登場すれば、検討することはあり得ると思います」とのことだった。


 同じハイブリッドながら、ジャパンタクシーの燃費、耐久性はプリウスα(2021年3月末で生産終了が決定)に比べてどうなのかと訊くと、「ジャパンタクシーは2017年秋の導入からまだ3年ほどであり、耐久性についての比較はなんとも言えませんが、メンテナンスに関しては特に変わりありません」という。

 ちなみに日本交通では、プリウスをLPGでも使えるように改造 (ガソリン+LPG+電気の“トリプルハイブリッド”仕様)して使用しており、「燃費に大きな差はないと認識しています」とのコメントだった。

 リーフなどのEVの導入予定はあるのかと訊いてみると、リアルな答えが返ってきた。

 「リーフは過去に実験的に使用した実績がありますが、航続距離等の問題から現在は使用していません。現時点ではEVの具体的導入計画はなく、今後の検討課題となります。タクシー用車両の開発はどうしてもメーカー側に委ねざるを得ないなかで、現状においてはタクシー用として開発したジャパンタクシーが最も現実的な選択肢と考えています」。

●日本交通
保有台数:1607台(都内直営事業での保有車両)
トヨタジャパンタクシー::1521台。燃費:12~13km/L
※従来のクラウンセダン(コンフォート)LPG仕様の燃費:約6km/L

評価の高いジャパンタクシー:日の丸交通

ジャパンタクシーの高めの価格とセダンタイプを好む顧客への対応などを考慮して、ガソリンハイブリッドのシエンタやカムリなどが少数派ながら導入例も増えはじめている

 日の丸交通については過去に取材経験があって(2017年のジャパンタクシー登場の約2年前の2016年)、当時でも3代目ベースのプリウスαでさえ、燃費の良さとメンテナンス性の高さを聞いていた。

 日の丸交通が運用しているタクシー車両の保有台数は、前回取材当時の607台から現在は618台と微増しているが、車種別に変化を見てみると、5年弱前のクラウンセダンのLPG車は415台と保有車全体の約7割だったが、生産中止とともにジャパンタクシーの導入によって現在では76台に減少、プリウスα(ガソリン仕様)は、同取材当時の177台に対して、現在では26台のみとなった。

 いうまでもなく、ジャパンタクシーが419台と保有台数のトップを占めるが、シエンタハイブリッドも71台と2位のクラウンセダンをいずれは追い抜くことになるだろう。

 前記と同じくジャパンタクシーの燃費や耐久性がプリウスαに比べてどうなのかと訊くと、「ジャパンタクシーはタクシー用に開発された車両なので耐久性は高い。プリウスと比較すると特にブレーキアクチュエーター、駆動用バッテリーの耐久性が高く、プリウスの2倍近い走行距離を経ても不具合はほとんどない」としている。

 またEVの導入予定については、「現状でタクシー装備を与えた車両の走行距離は150km程度なので、250~300kmくらいまで走行距離が延びれば検討可能」というのは、EVタクシーの現実を示しているといえる。

●日の丸交通 保有台数:618台(2020年2月時点)
・LPG
トヨタクラウンセダン:76台。燃費:5.69km/L
トヨタジャパンタクシー:419台。12.17km/L
・ガソリンHV
トヨタシエンタHV:71台。燃費:15.67km/L
トヨタプリウスα:26台。燃費:13.98km/L
トヨタカムリ:3台。燃費:15.78km/L
・ガソリン
トヨタアルファード:14台。燃費:6.66km/L
トヨタエスクァイア:6台。燃費:8.43km/L
トヨタハイエース:2台。燃費:6.01km/L
・燃料電池車
トヨタミライ:1台

ジャパンタクシーを購入しない理由:エムケイ(京都MK)

サービス向上のために車両をグレードアップし、従来のLPG車から離れる流れも起きている。京都MKでは、アルファードやカムリ、セレナe-POWERなどのガソリンハイブリッド車を積極的に導入している
セレナe-POWERのタクシー(京都MK)
カムリ(HV)のタクシー(京都MK)

 タクシーに関する話題で目をひいたのは、京都府を中心に全国展開しているエムケイ株式会社(保有台数:869台、2019年9月現在)が2021年1月19日、2025年までに全車両を電動化すると発表したこと。このため、従来から営業運転しているLPG車も2021年8月で運用を終了する予定という。

 実は京都MKはLPGからの移行を鑑み、従来からジャパンタクシーを導入しておらず、シエンタハイブリッドやセレナe-POWERなどのガソリンハイブリッド車をラインナップに加えている。

 そこで質問を少し変えて、既存のLPG車両からガソリンハイブリッドへの移行を進める理由を訊くと、「通常のタクシー以外の観光貸切、空港送迎、インバウンド対応などの需要に応えるべく、サービス向上の一環として車両のハイグレード化を数年来推し進めてきたからです」との答えが返ってきた。それを可能にしてきたのが「ガソリンハイブリッド車の燃費の向上」だという。

 「LPG車両と比較しても代替えまでの4~5年間での車両価格、燃料費、整備修繕費のトータルコストに大きな差がなくなってきました」とのことだ。ジャパンタクシーを導入しない理由としては「車両価格が高く、弊社の脱LPG車両戦略から離れるため」としている。他社と同じく、EVについて今後の導入予定があるのかという問いには「検討中」とのことだった。

●京都MK 保有台数:869両(タクシー:733両/ハイヤー:136両、2019年9月現在)
タクシー運用
・LPG:トヨタクラウンセダン(コンフォート)
・ガソリンHV:トヨタシエンタHV、トヨタカローラフィルダーHV、トヨタカムリ、日産セレナe-POWER、トヨタノア/ヴォクシー/エスクァイア
・プラグインHV:BMW740e
・EV:日産リーフ
ハイヤー運用
トヨタアルファード/ヴェルファイアHV
※セダンのハイヤーはトヨタクラウンHV、センチュリー、ドイツ系輸入車など。保有台数は1~4台。

●主なタクシー仕様車の燃費
トヨタクラウンセダン(LPG車):120台。燃費:5~6km/L
トヨタシエンタHV:120台。燃費:15~16km/L
日産セレナ(e-POWER):50台。燃費:10~12km/L
トヨタアルファード/ヴェルファイアHV:80台。燃費:9~10km/L

ハイブリッド車はまだまだ使える

クラウンコンフォートの上級版、クラウンセダンは2001年8月に登場、2017年6月に受注が終了し、受注分の生産は2018年1月に終了。ボディサイズは全長4695×全幅1695×全高1515mm。全長4830×全幅1710mmとしたスーパーサルーンも用意された。2L、直4の LPGエンジンは116ps/19.3kgm

 大手のタクシー会社ではおよそ4~5年/25万~30万km目処で売却され、なかには30年以上使用されるともいわれる従来のタクシー車両だが、先のコメントのようにハイブリッドはメンテナンス面については優秀で、ブレーキの耐久性は回生ブレーキの効果によって格段に向上しており、ニッケル水素バッテリーの耐久性に関しても、使用中に交換するケースは珍しいとのことだ。

 燃費について今回取材した各タクシー会社のデータをまとめれば、従来のタクシー専用LPG車であるクラウンセダンの5~6km/Lに対して、ジャパンタクシーは12~16km/Lと大きく上回る。

 注目すべきは導入例が増えつつあるガソリン仕様のシエンタハイブリッドだ。燃費は15~16km/Lだから、給油の融通が利くことも利点として挙げられる。さらにLPG化した場合の総コストの面で、果たしてジャパンタクシーと互角に戦えるのか興味深い。

今後はLPGハイブリッドだけが生き残っていくのか?

 トヨタジャパンタクシーはハイブリッド車(LPG)だから、電動車に含まれるため、このままいけば電動車として認められることになる。今後の状況の変化によっては、小規模ながらガソリン時ハイブリッドの攻勢を受けているように、現状に安閑としてはいられないかもしれない。

 「グリーン成長戦略」の主軸となるはずのEVの導入については、インフラ整備を含めて(タクシーが充電のためにディーラーに駆け込む場面などは想像できない)、ビジネス面で導入に向けたハードルが高いことは間違いない。

 今夏に決定される施策によって、ただのLPGタクシーが受ける影響が気になる。いずれにしても、まだ我々が目にしている、セダン型のLPGのタクシー、トヨタクラウンコンフォートやトヨタコンフォート、クラウンセダン、Y31型セドリックセダンともにすでに新車の販売が終了しているから、街中を走るセダン型のLPG車についても淘汰されていくのは時間の問題だ。

 現実のタクシー車両の使用条件として、年間10万kmで最長耐用距離は30万~50万km、耐用期間は約3~5年、最長では30年ほどと言われており、大手タクシー会社では4~5年、25~30年で買い換えによって車両を入れ替えているからだ。

 ハイブリッドの扱い方とともに、その先にあるEVやPHEVとして導入政策がどのように進んでいくのかについても、2021年夏に決まるまで事の成り行きを見定める必要がありそうだ。

 経済産業省は昨年末に関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。

 この政策は、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策ということになる。経済産業省は今後の方針を「商用車については2021年夏までに策定予定」としている。

【画像ギャラリー】マイナーチェンジで大幅に進化したJPNタクシーの詳細を見る

最新号

ベストカー最新号

【スクープ】セリカ復活も!? トヨタのスポーツ&電動化戦略が加速する!!|ベストカー3月26日号

 ベストカー3月26日号が、本日発売。今号のベストカー、巻頭を飾るスクープは、トヨタのスポーツモデル戦略を追います。  高評価を受けるGRヤリス搭載の1.6L、直3ターボ。272ps/37.7kgmを発生するこのエンジンを次に積むモデルは、…

カタログ