■901運動の中で誕生したシルビア
1980年代後半、日産では901運動が盛り上がっていたのでした。1990年代までに技術世界一を目指すというスローガンのもと、シャシー、エンジン、ハンドリング、デザイン、品質向上などの技術開発に力を注いでいました。
そんな中で生まれた代表的なクルマの1台がシルビアでした。曲面を取り入れた流麗なエクステリアデザインは、それまでの丸みのあるデザインやエッジの効いたデザインという流れとは一線を画しており、当時見たことのない美しい形という評価でした。
操縦性の面でも、トラクション不足に悩む日産の答えとして開発したリヤ・マルチリンクサスペンションを採用して、ステアリング操作に対する精度感が高く、しなやかで懐の深い足回りでした。
フロントヘビーなシャシーレイアウトでしたが、操縦性は見事なほどの弱アンダーステアに仕上げられており、しかもリヤのマルチリンクの滑らかな動きのおかげでリヤタイヤの滑り出しが穏やかにゆっくりと起こるので、グリップの限界域のコントロール性も従来のクルマとは一線を画すほど優れていました。
リヤサスの滑らかな動きは、もちろん運動性能の良さとしてスポーツドライブを楽しむのに役立つわけですが、それだけでなく街乗りでも乗り心地の良さとして現れ、形だけでなく乗り心地の点でもデートカーとして優れていました。
ちょうどプレリュードでデートカーに火が付き、”パーソナル“という言葉が巷に聞こえ始め、クルマの中の閉じられたパーソナルな空間に注目が集まっていたのもこの頃です。
クルマの存在感としては車格もエンジンもアッパーミドルであり、立派なクルマでした。その一方で、実際に走らせてみれば、ボディサイズは5ナンバーサイズに収まるものだからもて余さないし、しかもボディ前後が絞り込まれているのでさらに取り回しのいいクルマでもありました。
つまりS13シルビアは、その抜群のスタイリングと、立派なサイズ感、おしゃれなインテリア、上質な乗り心地、パワフルなエンジン操縦性の良さなど、すべてを持ち合わせたクルマでした。
■S13の5ナンバーサイズに回帰したS15
ここでもう一度5ナンバーサイズについて考えてみたいと思います。シルビアの全幅は、S13が1690mmでしたが、S14は1740mmに拡大、そしてS15で再び5ナンバー枠の1695mmになります。
これはS13のサイズ感を求める声が大きかったからです。5ナンバー枠撤廃後も5ナンバー枠を超えるボディサイズに違和感や扱いにくさを感じる人が多かったということなのでしょう。
S13シルビアがデビューした1988年から33年もたってしまった今となっては、5ナンバーサイズはただただ小さく見えますが、山道でスポーツドライブを楽しむといった場面では、やはりコンパクトなサイズは圧倒的に走りやすいと思います。
特に日本の5ナンバーサイズは、事実上それ以上のサイズを作ることができなかったために、ミリ単位で室内空間の作り方を工夫してきたので、案外見た目のサイズ感よりも室内は広いと感じます。特に人をたくさん乗せないスポーツクーペならむしろそのコンパクトさがメリットにもなります。
1990年代に入るとチューニングカーブームとドリフトブームが巻き起こり、サイズ、価格、パワーが手頃だったシルビアは一躍ベース車としても脚光を浴びます。
日産が求めたスタイリッシュなスポーツカーとはちょっと違ってしまいましたが、爆発的な人気を博して90年代を彩るたくさんのスポーツカー群の中でも存在感を発揮していたのでした。
【画像ギャラリー】手頃なサイズで軽やかに路上を駆け抜けた5ナンバーFRクーペ S13シルビア(12枚)画像ギャラリー
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