2021年11月、ダイハツのコンパクトSUV、ロッキーおよびトヨタにOEM供給しているライズに、ダイハツが独自に新開発した、シリーズハイブリッドのe-スマートハイブリッドを搭載した。
しかし、ダイハツの主力である軽自動車にはフルハイブリッドはおろか、マイルドハイブリッドさえ搭載されていない。
そんな状況のなか、スズキは新型アルトに、これまでのエネチャージに加えて、マイルドハイブリッドを搭載してきた。このマイルドハイブリッドは、ワゴンRやスペーシア、ハスラーにもすでに搭載されている。
2030~2035年の電動化時代に向けて、世界の各自動車メーカーが堰をきったように電動化を急いでいるが、当然軽自動車は除外されているわけではない。
はたして、ダイハツは、軽自動車の電動化について今後どうするのだろうか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が追う!
文/渡辺陽一郎
写真/ダイハツ、スズキ、トヨタ、ベストカーweb編集部
■注目されるダイハツHVの今後
最近は環境技術の代表が電気自動車のようにいわれているが、ハイブリッドの果たす役割も依然として大きい。エンジンを搭載しない電気自動車は、容量の大きなリチウムイオン電池を必要とするため、特に低価格車を成立させるのは難しい。エンジンを併用するハイブリッドが現実的だ。
今後はさまざまなパワーユニットが、互いに協力して、長所を生かし合いながら二酸化炭素の排出抑制を促進させていく。「内燃機関はダメ」という否定的な発想は短絡的でメリットが乏しく、技術進化の根本的なセオリーにも反する。
そこで注目されるのがダイハツの動向だ。今はトヨタの完全子会社で、小さなクルマを中心に開発と生産を行う。DNGAの考え方に基づいたプラットフォームは、経済性に優れた価格の割安な軽自動車と小型車に使われている。衝突被害軽減ブレーキのスマートアシストも、割安な価格で安全性を向上させる技術だ。
そして、2021年11月、ダイハツのロッキーとトヨタに供給されるOEM車のライズに、シリーズハイブリッドのe-スマートハイブリッドを搭載した。
親会社のトヨタには、THSIIと呼ばれる完成されたハイブリッドシステムがあり、コンパクトなヤリスやヤリスクロスも搭載している。ロッキーとライズもコンパクトSUVだから、このシステムを使うことも検討されたが、最終的にダイハツ独自のe-スマートハイブリッドを開発した。そこが注目されるところだ。
ダイハツがe-スマートハイブリッドを開発した以上、搭載車種がロッキーとライズのみに限られることは考えにくい。開発には多額の費用が投入されているからだ。
しかもe-スマートハイブリッドは価格が安い。ロッキープレミアムG、ライズZ同士で、直列3気筒1.2Lノーマルエンジン搭載車と価格を比べると、e-スマートハイブリッドの価格アップは28万9000円に抑え込んだ。
一般的にノーマルエンジンとハイブリッドの価格差は、マイルドハイブリッドを除くと35~60万円だ。eスマートハイブリッドは相当に安い。いい換えれば大量に生産して量産効果を向上させないと、開発費用を回収できない。
それなのにダイハツが開発と生産を行う小型車は、車種数が少ない。日本で販売されているのは、ロッキー&ライズ、トール/ルーミー/ジャスティ、ブーン&パッソのみだ。
これらの内、ブーン&パッソの先行きは不透明だ。以前のトヨタは販売系列によって取り扱い車種を区分して、ヴィッツ(ヤリスの前身)はネッツ店、パッソはカローラ店が販売していた。従ってヴィッツとパッソを作り分ける意味もあった。
しかし今は、トヨタの全店が全車を扱う。ヤリスとパッソは同じ店舗で併売され、直列3気筒1Lエンジンも両車に搭載されている。2WDの価格帯は、パッソが126万5000円から172万7000円で、ヤリスも1Lエンジン搭載車は139万5000円から163万円だ。価格帯も重複している。
このようにヤリスとパッソは似通った商品だ。そのために今では、パッソの登録台数はヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の約30%に留まる。開発と生産を合理化するため、パッソとブーンを終了させる可能性もある。
仮にそうなれば、現状のラインナップでe-スマートハイブリッドを搭載できるのは、ロッキー&ライズとトール/ルーミー/ジャスティだけだ。
海外で販売する車種に搭載する方法も考えられるが、ダイハツは他社に比べて海外の販売比率が低い。ほかのメーカーでは、大半が世界販売台数の80%以上を海外で売る。日本向けの軽自動車が多いスズキでも、海外比率は77%で、国内では23%しか販売されていない。
ところがダイハツは比率が逆転して、海外は35%、国内が65%と多い。そうなるとeスマートハイブリッドを海外向けの車種に搭載して、売れ行きを伸ばすことも難しい。国内を中心に販売しなければならないが、前述の通りダイハツが国内で取り扱う小型車は限られる。
そうなると必然的に、軽自動車に搭載する。ダイハツが国内で新車として販売するクルマの内、軽自動車が90%以上を占めるからだ。
コメント
コメントの使い方