乗用車マーケットにおいて、一番人気のカテゴリーとなったSUV。今やランボルギーニやアストンマーティンもSUVを作る時代となったが、その始まりは1997年に登場したトヨタの初代ハリアーだ。
他の国産メーカーはもちろん、欧米のプレミアムブランドよりハリアーが先だったという事実には驚くばかりだが、もっと驚くのはハリアーが誕生して25年しか経っていないこと。SUVはあっという間に世界の自動車市場の勢力図を塗り替えてしまったわけだ。SUVの元祖、ハリアーの進化をたどってみよう。
文/先川知香
編集/奥野大志
写真/トヨタ
カムリをベースに走破性と快適性を両立した初代
初代ハリアーが登場した1997年は、オフロードの走破性を重視した4WDモデルが、まだRVと呼ばれていた頃。ハリアーは「高級サルーンの乗り心地と快適性を兼ね備えたクロスオーバーSUV」として登場。日本でSUVという言葉を広めるきっかけとなった。
当時のRVといえば、リアゲートにスペアタイヤを搭載した「ザ・オフロード車」という泥臭いスタイルが定番。一方の初代ハリアーは、車高の高さによる高めのアイポイントや、走破性の高さが主な特徴であるオフロードテイストを採り入れながらも、RVカテゴリーに属するモデルとは一線を画した都会的なスタイルが採用された。
また、インテリアも決して商用車ベースではなく、上質さと使い勝手の良さが兼ね備えられたことで、高級SUVという新たなジャンルを確立。先述の通り、国内外の強豪自動車メーカーのラインナップに、大きな影響を与えた。
初代ハリアーのベースは、トヨタの世界戦略車セダン「カムリ(6代目カムリ・XV20系)」のプラットフォーム。SUVとしての走破性はそのままに、乗用車のような快適な乗り心地と静寂性を実現しただけでなく、デザインはセダンやクーペのような流麗なスタイルという斬新さで、多くの人を驚かせた。
エンジンは3,000 cc の1MZ-FE型V型6気筒と2,200 cc の5S-FE型直列4気筒搭載モデルがラインナップされ、駆動方式は4WDとFFの2種類。トランスミッションは、4速ATのみの設定となっている。
ちなみに、SUVはSport Utility Vehicle(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の略称だが、この「S」が表すスポーツは、決してモータースポーツなどのスポーツ性能を示す訳ではなく、スキーやスノーボード、サーフィンなどのアウトドアスポーツを示している。1997年に日本で「ハリアー」、翌1998年にその北米版であるレクサス「RX」が販売され、どちらも大ヒットとなった。
ハイブリッド追加で商品力をアップさせた2代目、国内専用車となった3代目
ハリアーは2003年にフルモデルチェンジを実施。「ハンドリング性能と先進の安全性」をテーマに、ひとまわり大きくなったボディやサスペンションの改良により、乗り心地を向上。
ミリ波レーダーを用いた衝突被害軽減装置「プリクラッシュセーフティシステム」が世界初導入されるなど、現在のToyota Safety Senseにつながる先進の安全装備も数多く盛り込まれた。さらに、エコとパワーを両立させる「ハイブリッド シナジー ドライブ」をコンセプトに開発された「THSⅡ」搭載の、ハリアーハイブリッドが追加されたこともトピック。
その後2013年には3代目にフルモデルチェンジされると同時に、国内専用車へと路線を変更。「高級・進化・新規」の3つを開発テーマに、ボディーサイズは小型化されるも、室内空間には従来型以上のゆとりが確保され、日本国内での使い勝手の良さが重視されたモデルへと進化を果たしている。パワートレーンも2000㏄のガソリンエンジンとハイブリッドの2種類に変更された。
流行のクーペフォルムを取り入れた4代目(現行モデル)
そして、現行モデルとなる4代目は2020年に登場。「TNGAプラットフォーム(GA-K)」をベースに、実用性やスペックではなく、品質やデザインを重視したクーペフォルムのSUVへと進化を果たした。
さらに、初代からのトレードマークとなっていた「チュウヒエンブレム」が、トヨタエンブレムに変更されたこともトピック。再びグローバルへの展開もおこなわれるなど、新たな取り組みも行われ、発売直後となる2020年7月には9388台の販売を記録。2021年9月までのわずか1年間+αで約11万台を販売し、国産SUVのベストセラーカーとしての地位を不動のものとした。
都市型SUVのパイオニアとして登場したハリアーは、時代の流れに合わせた進化を続けながらも、今なおSUV市場を牽引している。流行り廃りの早い自動車業界で、その立ち位置を維持し続けられた理由、それは時代に沿った「ハリアーらしさ」を表現し続けてきたことに他ならない。
それらは、初代ハリアーが業界にもたらした功績ほど大きなインパクトはないかもしれないが、それでも小さな革新を起こし続けてきた。それが、トヨタ「ハリアー」なのである。
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