『ドライブ・マイ・カー』など映画にクルマが出てくることの利点や効果はいかほどのものか?

■RONINの激しいカーチェイスは特筆もの

 もう1本、映画監督とクルマとの関係性で語りたくなるのがジョン・フランケンハイマー監督の『RONIN』(1998年)。骨太の男っぽい映画で知られるフランケンハイマーの憧れの職業はレーサーだったのだが、もうひとつの趣味、映画のほうに進路変更し、そちらで名を成すことになった。

 そんな彼が趣味と実益を兼ねた映画がレース映画の最高峰といわれる『グラン・プリ』(1966年)。そして、カーアクション映画のベスト作が『RONIN』である。

 フランケンハイマー自身は米国生まれの米国人なのだが、ヨーロッパで撮ることも多く、本作の舞台もフランス。タイトルはダテではなく、重要な何かが入れられた銀色のケースを盗み出すため、冷戦後、雇い主を失ったその道のプロが集められるというストーリー。そのプロフェッショナルをロバート・デ・ニーロやジャン・レノが演じ、激しいカーチェイスをみせてくれる。

 舞台はヨーロッパなので、クルマもアウディ、BMW、プジョー、ルノーが中心。すでにデジタルも普及していた時代に撮られた映画だが、クルマ好きなフランケンハイマーらしく、ほぼリアルでカーアクションを撮影。しかも、あまり見たことのないBMWをプジョーが追うというシチュエーションで大コーフンさせてくれるのだ。

 BMWは5シリーズのE34型、プジョーは406というコンビネーション。パリ市街の道路を逆走しながら追いかけるのだが、プジョーを運転するのがデ・ニーロで、マニュアルのギアを入れ替えるショットが何度も入り、サイドターンもクールにキメてくれる。

BMW 5シリーズ(E34)。日本国内でも1988年-1996年の間販売されていた
BMW 5シリーズ(E34)。日本国内でも1988年-1996年の間販売されていた
プジョー 406。後継の407と合わせて、映画「TAXi」にも出演している
プジョー 406。後継の407と合わせて、映画「TAXi」にも出演している

 これがフランケンハイマーっぽいというか、デ・ニーロのローニン・キャラクターに合っているというか、クルマ好きっぽさがにじみ出ていて嬉しくなってしまうのだ。

 かなりのクルマをクラッシュさせていて、その数は80台とも言われている。リアルにやったからこその数字、なのである。

■ミニミニ大作戦でMINIが欲しくなる

 最後にご紹介したいのは、映画を観ると無性にそのクルマが欲しくなってしまうという作品。それが『ミニミニ大作戦』(1969年)というクライムコメディだ。原題は「イタリアン・ジョブ」。イタリアのトリノで金塊をいただくイギリスの泥棒たちの話だからなのだが、日本でこのタイトルになったのにはワケがある。

 その金塊強奪シーンで大活躍するのが、わざわざイギリスから運んできた3台のミニクーパー、1967年製オースチンミニS1275だからなのだ。

オースチン ミニ。1959年に誕生したこのクルマ、実は仕様変更を繰り返しつつ、2000年まで新車販売されていたご長寿さんである
オースチン ミニ。1959年に誕生したこのクルマ、実は仕様変更を繰り返しつつ、2000年まで新車販売されていたご長寿さんである

 英国本国よりも日本のほうが人気は高かったんじゃないかとまで言われる、この小さくってキュートなクルマ、赤・白・青のユニオンジャックカラーに塗られた3台がトリノの道なき道、屋根の上から下水管、河川敷、アーケード街、歩道、あらゆるところを、まるでコマねずみのようにちょこちょこと走り回る。

 追いかけるのはパトカー仕様のアルファロメオジュリア・スーパーなのだが、こちらはいたるところでぶつかったり、つまづいたり、ついには水没したり。この英国車vsイタリア車の闘いがなんとも楽しい作品になっているのだ。

 BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)は映画には非協力的だったが、トリノに本社があるフィアットはフィアット500を含め、何台でも提供すると製作側にオファーしたと言われている。

 しかし、英国にこだわった監督がこれを断り、メイド・インUK色の強いミニクーパーを使うことになったとか。

 実際にはBMCは数台、提供してくれたという説もあるのだが、そのへんのことはよくわからない。確かなのは、この映画を観ると誰だって、ミニクーパーが欲しくなってしまうこと。少なくとも日本では最強のプロモーションになりそうだったからこそ、タイトルにも「ミニ」を謳いこんだのだろう。

 本作はその後、2003年にリメイクされている。邦題はそのままま『ミニミニ大作戦』だが、使われるクルマは2001年に設立されたBMWの初代ミニクーパー。同じユニオンジャックカラー(赤がR53系BMWミニクーパーS、青と白がR50系)に塗られたクルマが走るものの、ミニが活躍するのはロサンゼルス。

 追うのもクルマではなく、ヘリコプターになっている。こちらはBMC時代のミニとは異なり、もっと大人っぽい印象。コメディっぽかったオリジナルとは違い、シリアス度が増しているのも、BMWのイメージに合わせたのかもしれない。

 持ち主の生きざまとクルマとの関係性がドラマを生むこともあれば、監督のこだわりがクルマを動かすこともある。もちろん、映画で活躍するクルマを観て、欲しくなる場合もある。クルマが映画の相棒として最強の存在なのは、作品によってさまざまな顔を見せてくれるから。そのリレーションシップは永遠と言っていい。


●『ラスト・ラン 殺しの一匹狼』
The Last Run/1971年/米国映画/96分
監督/リチャード・フライシャー
出演/ジョージ・C・スコット、トニー・ムサンテ

●『RONIN』
Ronin/1998年/米国映画/122分
監督/ジョン・フランケンハイマー
出演/ロバート・デ・ニーロ、ジャン・レノ、ナターシャ・マルケホーン

●『ミニミニ大作戦』
The Italian Job/1969年/米英合作映画/100分
監督/ピーター・コリンソン
出演/マイケル・ケイン、ノエル・カワード、ベニー・ヒル

●『ミニミニ大作戦』
The Italian Job/2003年/米国映画/111分
監督/F.ゲーリー・グレイ
出演/マーク・ウォルバーグ、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ステイサム


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