■優雅なタルガトップ「タイプT」の追加
1995年3月、AT車にステアリング部分でチェンジできる「Fマティック」が導入されるなどのマイナーチェンジとともに、ホンダNSXにもうひとつの新タイプが登場する。それは「タイプT」で、いうまでもなくルーフ部分脱着可能な「タルガトップ」モデルであった。先の「タイプR」とはまたちがうキャラクターが出現したわけだ。
最初のデビュウ時、そのスタイリングを見たときからなんとなく想像できたものだが、じっさいに登場すると爽快さが伝わってくるようで嬉しくなってしまうような「タイプT」だ。
脱着可能なアルミ製のルーフは8.5kgと軽量で、外したルーフはリアキャノピー内に収納できるようになっている。たとえばフェラーリなどでもクーペとタルガはいつもペアのようにつくられていたし、特に北米市場では要望が大きかっただろうに、ようやく登場、という印象もあった。
さすがにデビュウ当初のような勢いはなくなっていたが、粛々と生産がつづくといった風で、1996年末までに1万6000台あまりの生産実績を残し、比較的大きなチェンジを経験する。
■ホンダNSXの移り変わり
NSXはずっと変わりなくNSXである、といった印象が強いが、大きく分けるとI型からIV型まで4つに分類できる。しかしこの変更は「排出ガス規制」などの必要に対処してという部分が多く、ホンダNSX自身が変っていったという印象は薄い。
その最初のチェンジ、つまりI型からII型になったのは1997年2月のこと。「平成12年排出ガス規制」に対応するために、MTモデルがエンジンを拡大した。新エンジンは排気量が3.2Lにアップ、型式もC30A型からC32B型へと変更された。
デビュウ時の3.0Lエンジンも、ぎりぎりのボアでこれ以上拡大不可能、などといわれていたのだが、新たに特殊なシリンダ・ライナーを開発、ボアを拡大して3179ccという排気量を得た。排気量が拡大されたにもかかわらずパワーは280PSのまま。
そう、メーカーが自主規制していた変な時代だったのだ。トルクは30.0kg-mから31.0kg-m/5300r.p.m.に向上、数字はともかく出力アップはしっかり果たされていたのだった。加えてMTは6段ギアボックスが与えられ、大いに走りは向上したのだった。
クルマ自体の型式もE-NA2型となり、3.0LのままのATはE-NA1型を踏襲する。
外観上はヘッドランプにプロジェクター・タイプが一部モデルで採用になったくらいで、ほとんど不変。
それよりも「タイプS」の追加が注目であった。これはフォグランプ、クルーズコントロールなどの省略で45kg軽量な1320kgとし、レカロの軽量バケット・シートや足周り強化で、スポーツ・ドライヴィングを追求したもの。
これにはさらにオーディオ、エアコンまで省いてさらに100kg近い軽量化を行ない、サーキット走行などを目的とした「タイプS-Zero」まで用意されていたのだから、ホンダらしいと話題になったものだ。
つづいて、1999年9月にはふたたびマイナーチェンジ、II型からIII型になる。低排出ガスを満たしたことから、税制優遇が受けられるようになったほか、アルミホイールの変更やコンピュータ・ユニットのプログラム見直しなど、細部だが進化をつづけるといった印象。
型式はGH-NA2型/GH-NA1型となり、この時点では、年産100台と本当に少量生産にシフトされていた。
2001年12月になって、はじめて外観上でのチェンジが施された。
一番大きな識別点となるのはヘッドランプがリトラクタブル式から固定式になったこと。同時に前後のバンパー周辺が新しくなっり、全体のフォルムは不変ながら、顔付きの印象などは変化した。これ以降がLA-NA2型/LA-NA1型、通称IV型と呼ばれることになる。
このチェンジ時から予告されていたのだが、翌2002年5月にはかつての「タイプR」を甦られたようなホンダNSX-Rがラインアップに加えられ、「タイプS-Zero」に取って代わった。
さらに「平成17年排出ガス規制」をクリアしてABA-NA2型/ABA-NA1型になるが、2004年4月、鈴鹿製作所の専用ラインに移され、受注生産で少数が手づくりに近い形で生産されつづけた。しかしそれも2005年末までで、さらなる規制も押し寄せるなか、ついに生産を終える。
しばらくの空白を経て、2016年に二代目ホンダNSXが登場したのはご存知の通りだ。
【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)
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