■専用プラットフォームも新規開発することで、課題を解決
直列6気筒エンジンの振動のなめらかさ、軽快なふけ上がり、澄んだ音質ながら迫力のあるエンジンサウンド、これらに神話的なあこがれをもつ方は、いまでもとても多い。
だが、全長が長い直6は、衝突した際にエンジンの逃げ場がなく、前面衝突をすると、エンジンがキャビン側へと押し込まれてしまい、乗員のダメージを低減することが難しい。
そのため、自動車メーカー各社は、2000年ごろから、排気量をそのままにエンジン全長が直4並に短くできるV型6気筒へと置き換え、衝突でつぶれる部分を増やし、衝突安全目標を満足させる方向へと舵を切った。
直6の開発にあたっては、この課題をクリアする技術目途が立っている必要がある。
「重要視されるオフセット衝突は直6の方が有利」とか、「シミュレーション技術の進歩が解決する」という意見に触れることがあるが、物理法則を無視したようなアイディアでは、厳格な衝突試験をクリアすることは到底できない。
依然として、縦置き+直6パッケージングの成立には高いハードルがあることは確かだ。
ただ、既存のプラットフォームを利用するのではなく、最初からV6前提の専用プラットフォームをつくることができれば、成立する解があるかもしれない。
エンコン(エンジンが収まるアボンネット下のエリアのこと)内の場所取り競争は昔よりもはるかに厳しく、そこへさらにエンジン全長の長い直6を積み、クラッシャブルゾーンを確保するのは至難の業だが、最初から直6前提であればクラッシャブルゾーンを緻密に設計することができる。
マツダもおそらく、エンジン縦置き用のプラットフォームも新規開発することで、課題をクリアしたのだろう。既に、ラージ群商品の1番手が登場したことを考えると、その目途は十分に立ったのだと思われ、発表が楽しみだ。
■マツダの技術力と心意気次第
ここ10年のマツダ車のデザインや技術力は、誰もが認めるところだ。しかし残念ながら、それと「クルマがヒットする」は比例するとは限らない。
「直6エンジン+AWDで重厚感のある走りを得て、さらにマイルド&ストロングHEVやPHEVで実燃費も抜群によい、デザインも最高のクルマにすれば売れる!!」という具合にはいかないのだ。
マツダが狙う「足場固め」には、2世代、3世代にわたりつくり続ける体力と、成功するまで諦めない忍耐力が重要だ。
仮に、直6搭載の新型車が売れなくとも、1世代で諦めず、次モデルに向けて改善し、顧客へと訴え続ける「心意気」が、信頼関係を築きあげ、そしてそれがブランドをつくりあげる、ということに繋がる。
1世代で「味見」したくらいで辞めてしまう程度の覚悟であれば、バッテリーEVへと戦略を全力で転換する方がよっぽどいい。
直6を今からつくる意味は、「技術力とブランド力の誇示」でしかない。車種の統廃合が進み、車種ネーミングでは欧州プレミアムメーカーがとる戦略をなぞっているマツダだが、ブランド力が試されるDセグ、Eセグメントでユーザーを振り向かせるのは、技術力はもちろん、かなりの忍耐力も必要だろう。
ひとまずマツダは、「直6エンジンと縦置きプラットフォーム」で、世間の関心を集めることに成功した。今後の戦略の成否はマツダの技術力と心意気にかかっている。引き続き、マツダの動向には注目していきたい。
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