■”リトラ映え”した名車たち
スタイルを重視するために生まれた装備ということもあって、端的に言ってリトラクタブルヘッドライト採用車はいずれも「カッコいい」。なかでも日本初のリトラクタブルヘッドライト採用車であるトヨタ 2000GTの美しさは、海外のスーパーカーに匹敵するものであり、あの流麗なフロントノーズの造形を実現できたのは、リトラクタブルヘッドライトの賜物と言っても過言ではない。
ちなみに、設計当初は低い位置に設定されたノーズの先端にヘッドライトを備える予定だったが、アメリカ・カリフォルニア州が定めていた当時の法規に適合しなかったためリトラクタブルヘッドライトを採用したという経緯がある。
カウンタックやフェラーリといったスーパーカーのリトラクタブルヘッドライトは、格納時はもちろん、展開時でも実に美しく、それが「リトラクタブルヘッドライトってカッコいい」につながっていたのは事実だ。その点においては2000GTも秀逸だったが、ホンダ NSXもまた展開・格納の両方でカッコよさが際立っていたモデルといえる。
NSXのリトラクタブルヘッドライトは展開時の高さを最小限に抑えることを狙い、プロジェクター4灯式が採用された。ユニットの高さを約90mm、幅を210mmとしたことで、ライトを展開した状態でもスタイリッシュなうえに空力にも優れた効果をもたらしている。バルブからの光を前方に照射するためのリフレクターも小型化されているが、絞った光を凸レンズおよびアウターレンズによって適切な配光としている。
この構造や造形へのこだわりが、スポーツカーの新しい方向を提示する未来感に満ちたスタイルの構築に大きく貢献していたのは言うまでもない。
格納時と展開時のスタイルにギャップが生じるというのも、リトラクタブルヘッドライト採用車ならではの個性と言える。なかでもユーノス ロードスター(NA6型)は、格納した状態で外から見ると四角いのだが、展開すると丸いライトが現れる。
この丸目が、曲線で表現された外観と見事にマッチングしているうえに、ボディ先端のウインカーと車幅灯やバンパー下部のダクトなどと相まって、ファニーな表情を作り出している。格納時はオープンスポーツカーならではの精悍さを誇示しつつも、ライトONすると愛嬌のある風貌になるという”ギャップ萌え”は、ほかのスポーツカーにはないロードスターならではの個性と言えるだろう。
■手に入らないからこそ胸に刺さる魅力
格納時にスタイリッシュなフォルムを実現するのがリトラクタブルヘッドライトの利点だが、ライトの存在をあえて完全に隠さないセミ・リトラクタブルヘッドライトというものも存在した。
採用車種は多くないが、ヘッドランプの半分または四分の一だけを覆うカバーのみを開閉するホンダ バラードスポーツCR-Xやいすゞ ピアッツァのほか、点灯時にライトが垂直に移動するパラレルライジングヘッドランプという機構を採用した日産フェアレディZ(Z31型)などがそれに該当する。
いずれも格納時は薄目を開けているようでもあり、なんだか眠そうにも見える。だが、一般的なリトラクタブルヘッドライトとは異なり、点灯してないときもライトの存在がさり気なくアピールされ、ライトのON/OFFで大きく表情を変えてしまうようなことがないというのが大きな特徴だった。
国産車では最後のリトラクタブルヘッドライト採用車であるマツダ RX-7が絶版になって20年を経た現在も、リトラクタブルヘッドライトの復活を望む声はある。しかしリトラクタブルヘッドライトは、現代のクルマを取り巻くさまざまな基準からは推奨されるものではなくなり、デザインや空力性能を追求するうえで画期的だったという、かつてのメリットはもはや得られない。
おそらく今後も市販車でリトラクタブルヘッドライト採用車が見られる可能性は低いだろう。しかし、すでに手に入らないからこそ、その価値がクローズアップされるというもの。リトラクタブルヘッドライトはいまや旧車の象徴とも言える装備だが、それによってもたらされる美しさやオリジナリティは、ノスタルジーの一言では片付けられないほどクルマ好きの心に刺さるものである。
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コメント
コメントの使い方マーキュリーコロニーパークもリトラのワゴンでしたよね!