嗚呼、無情……三菱がパジェロ製造の工場を大王製紙に売却の衝撃!! 「EV化が進むと国内の自動車生産工場(の雇用)はどうなるのか」

■自動車工場が製紙会社に、日本の産業構造の変革なのか

 一方、パシェロ製造の工場を買収する大王製紙は「エリエール」のブランドで知られるティッシュやトイレットペーパー、紙おむつなどの衛生用紙では国内トップシェアだが、近年はペーパーレス化による需要減退のなかで、新型コロナ感染症の拡大で、アルコールタオルやマスクなどの需要が拡大して増産体制を続けているという。

 もっとも、紙パルプ業界はセメントや製糖産業などとともに、終戦後の復興から高度成長期には朝鮮動乱の特需によるいわゆる「三白景気」の追い風を受けて目覚ましい成長を遂げてきた。が、石油危機を契機に燃料コストの高騰や環境汚染問題などから苦境に立たされて操業が低下し、過剰設備の処理に追われて業界再編が加速した。

 コロナ禍によって大きく変貌した市場構造のなかで、パジェロの工場が、かつての構造不況業種の代表格だった製紙会社に引き継がれるとは、まさに隔世の感を覚えるが、これはよそごとではない。自動車全体に占める電気自動車(EV)の市場シェアが大きくなると、部品メーカーを中心に国内の生産拠点が淘汰されて、雇用が失われる恐れがあるからだ。

■電動化により続々と閉鎖する自動車工場

 すでに、国内の自動車工場が閉鎖する例としては、昨年末にはホンダが埼玉県の狭山工場で「オデッセイ」や「レジェンド」などの生産を終了しており、閉鎖後の跡地利用を模索中。さらに、栃木県にあるエンジン部品を製造する真岡工場も2025年末までに閉鎖を決めている。

 ホンダは昨年4月、三部敏宏氏が新社長に就任して早々、2040年にはハイブリット車(HV)を含めてガソリン車を販売しない「脱エンジン」を宣言し、従来からの事業モデルの脱却に乗り出した。先日、ソニーグループと手を組むことを突然発表したのは、電動化を加速させるための戦略のひとつと考えられる。

 そのいっぽうで、EVの部品数はガソリン車の半分近い2万点以下に激減するとみられており、電動化によってエンジンやトランスミッション関連などを製造する部品工場は不要となって生産設備の廃棄は避けられないだろう。

 しかも、政府は2050年に二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロとする目標を掲げており、脱炭素に向けてエネルギー消費量の多い自動車工場に対しても、車体製造や組み立て工程にかかる厳しい省エネ基準を定めてCO2排出削減を促す「行政指導」の動きも無視できない。

 例えば、閉鎖するホンダの狭山工場は半世紀以上前の1964年に設立されたほか、真岡工場にしても1970年から稼働しており、定期的にメンテナンスを実施しても老朽化が激しい。その意味では、三重県の鈴鹿工場は現在「N-BOX」などの軽自動車を中心に生産しているが、稼働開始は1960年からで狭山工場よりも歴史が古い。

 今後のEVの販売状況にも左右するが、国内向けの生産台数は先端技術を導入して2013年から稼働した寄居工場(埼玉県)でカバーできれば近い将来集約される可能性もある。

■トヨタは国内の自動車工場を守れるか

 そして興味深いのは、完成車の組み立て工場だけでも国内で14の生産拠点を構えるトヨタだ。2年前、電子部品専用の広瀬工場(愛知県豊田市)を、トヨタグループのデンソーに移管したが、その後は目立った再編の動きは見当たらない。

大幅な電動化へと舵を切ったように見えるトヨタ自動車。製造部品数が半減するEVシフトの中で、どのくらい国内の自動車工場を維持できるのだろうか
大幅な電動化へと舵を切ったように見えるトヨタ自動車。製造部品数が半減するEVシフトの中で、どのくらい国内の自動車工場を維持できるのだろうか

 豊田章男社長は「3.11」の東日本大震災後から、ことあるごとに「日本のモノづくりを守るため、石にかじりついても国内生産300万台は維持する」という力強いメッセージを繰り返してきた。

 しかし、2020年5月、最初の緊急事態宣言下でオンラインによる決算会見で発言した以降、そのセリフをほとんど聞いたこともなく、今春闘の労使交渉の場では「足元の生産計画を現実に即したものに見直す」とも表明したという。

 昨今の経営環境を考えると無理もない。新型コロナの感染拡大に加えて半導体不足、さらに仕入れ先のサイバー攻撃や震度6強の東北地震発生などの影響で国内工場の稼働停止が相次ぎ、今年に入ってから3月末までの間、一時停止や減産などを告知するニュースリリースは10回以上を数える。

 トヨタにかぎった話でもないが、国内の新車需要が頭打ち状態のなかで、EVシフトが一段と加速すれば生産拠点の再編は待ったなし。全国各地に点在し、「企業城下町」として地域経済の発展を担ってきた自動車工場のなかには、一時的な「稼働停止」から「閉鎖」、そして「売却」へと移り変わってゆく姿は、それほど遠い日のことでもないだろう。

【画像ギャラリー】ジープの生産から始まった「パジェロ製造」78年間の自動車工場の歴史と製造車種を写真で振り返る(19枚)画像ギャラリー

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!