BMWグループは2022年3月10日、アルピナ(ALPINA)の商標権を取得すると発表した。
これまでBMWをベースにした高性能モデルを手がけたきたアルピナが、BMWグループの下で新たな戦略的再編に取り組むことになる。
そもそもアルピナとはどのような成り立ちのメーカーだったのか? そして、ファンが大いに気になるであろう、BMWの傘下に入ることで、これからのクルマづくりにどのような影響が考えられるのかについて考察していきたい。
文/岡本幸一郎
写真/BMW
■日本でも多くのユーザーが共感するアルピナの成り立ちと魅力
2022年3月10日、突如として、BMWグループがアルピナ(ALPINA)の商標権を取得する旨が報じられた。
アルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社(以下「アルピナ社」)が、BMWグループへのALPINAブランドの譲渡を決議したことによる。ただし、株式の売却は行なわれておらず、いわゆる買収ではない。
さらに、車両開発と生産はこれまでどおり2025年末まで継続されること、アルピナ社は今後、新たに創業家の名を冠した「ボーフェンジーペン社」として、クラシックカー関連事業への投資や、これまでと異なる情熱的で新しいモビリティの開発に挑戦し続けること、全年式の車両スペアパーツの供給とサービス提供を長期的に保証することなども併せて発表された。
アルピナ社の前身は、1961年にボーフェンジーペン家の家業であるタイプライター工場で、BMW 1500用の強力なマルチ・キャブレター・ユニットを開発し、それを「アルピナユニット」と名付けたのが始まりという。
それが評判を呼び、1965年には法人化。燃料供給装置の製作だけでなく、高い技術力を活かしたチューニングはほどなくエンジン全体におよび、やがて車両全体を手がけるようになる。
1960年代の終盤から1980年代半ばにかけては、モータースポーツでも名を馳せた。一方で、1978年より市販コンプリートカーを送り出し、1983年にはドイツ自動車登録局に自動車メーカーとして正式に登録されたことも特筆できる。
ちなみに、かつては求める性能を実現するため、BMWから供給されるホワイトボディから1台ずつ組み立てていたが、近年ではオリジナルのボディのレベルが高まったため、そこまでのことはやっていない。ベース車に対する価格差が昔ほど大きくなくなったのは、そのあたりも影響している。
そんなアルピナはこれまで数々の名車を送り出し、多くの愛好家を生んできたのは周知のとおり。納期に時間を要することでも知られるわけだが、クオリティを保つためという理由から増産体制をしくことはなく、年間生産台数はずっと1500~1700台程度にとどめられてきた。
その限られたなかで約20%にあたる毎年300台程度が日本で販売されており、アルピナにとって日本は世界で2番目に大きな規模を誇る非常に重要な市場となっていることにも注目だ。
それはより特別なものを好む日本人の気質はもとより、アルピナ車が持つ独特の雰囲気、すなわち見た目は華美ではないが、乗ると非常に洗練されているあたり、繊細な感性を持つ日本の多くのユーザーの共感を呼んだからに違いない。
近年ますますアルピナ車の人気は世界的に高まっており、2021年には年間生産台数が過去最高となる2000台超を達成したばかり。
今後についても、その需要はますます高まっているとのことで、経営が芳しくなかったわけではぜんぜんなさそうなのだが、にもかかわらずこうしたはこびとなった背景には、いくつかの事情がある。
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