■トヨタ内で需要が重複しない
ライズの売れゆきがヤリスクロスを抜いて1位になった3つ目の理由は、ライズが2022年にハイブリッドを追加して売れゆきを伸ばしながら、ヤリスクロスは下がったことだ。ヤリスクロスは、2021年の1~3月には1カ月平均で1万577台を登録したが、2022年の1~3月は、冒頭で述べた8767台であった。ヤリスクロスの売れゆきは前年の83%に留まったから、ハイブリッドで売れゆきを伸ばしたライズに抜かれた。
それならなぜ、ヤリスクロスは売れゆきを17%も下げたのか。この背景にはカローラクロスの登場がある。ライズの売れ筋価格帯を2WDで見ると、ハイブリッドを含めて185万~233万円だが、ヤリスクロスは200万~258万円と高い。カローラクロスは240万~299万円だから、ライズの売れ筋価格帯とは重複しなくても、ヤリスクロスとは競い合う。
今のトヨタでは国内の全店が全車を扱うので、選べる車種は従来以上に豊富だ。従ってトヨタ車のユーザーは、よぼどの理由がないかぎりメーカーを変えない。そうなると新車を買う時の選択対象はトヨタ車のみになり、トヨタ車同士が競争する。
そのためにカローラクロスの登場により、価格帯の近いヤリスクロスはユーザーを奪われた。ヤリスクロスの登録台数が下がり、ハイブリッドを加えたライズが一層有利になった。
■比較的納期遅延が少ない
4つ目の理由には、昨今の納期遅延が挙げられる。直近ではライズの納期も遅れているが、以前は比較的短かった。2022年3月中旬の時点では、販売店は「ヤリスクロスの納期は6カ月以上だが、ライズなら3カ月前後で納車できる。従って納期を急ぐお客様には、ライズを推奨している」と述べていた。ライズはハイブリッドの追加で受注台数を増やしながら、納車も比較的順調だったから、SUVの販売1位になった。
ところが、直近では前述のとおりライズの納期も遅延傾向にあり、販売1位も危ぶまれている。
以上のように、今のクルマの販売現場は、異常事態を迎えている。以前は人気の高い車種は売れゆきを伸ばし、不人気車は落ち込む当然の売れ方をしていたが、今は納期によって左右される。
納期に影響を与えているのはパーツの供給だが、これも多様化している。メーカーの商品企画担当者は以下のように説明した。
「新聞などの報道では、半導体の不足が納期遅延の原因とされるが、実際はごく一部に過ぎない。樹脂製品なども含めた多種多様のパーツ、あるいは複数のパーツを組み合わせたユニットなど、さまざまな調達が滞っている。この状態が長期化すれば、汎用性の高いパーツに切り替えるなど、クルマ作りも見直しを迫られる」。
高性能で低コストのパーツを開発できても、製造メーカーが1社にかぎられると、供給が滞った時に代替えが利かない。今の供給状況を考えると、軽視できないリスクだから、性能が少し下がっても供給元を変更できる自由度が求められる。
そして納期の遅延が問題になってから、今では1年半以上が経過したから、納車を待っている受注台数も増えた。今後パーツの供給が回復しても、暫くは受注している車両の生産に追われて納期遅延が続く。この状況も、販売ランキングに影響を与えるわけだ。
従って新車を買うなら、長い納期を考慮して、商談は早めに開始したい。また、現時点でクルマを所有している場合は、長く大切に乗ることを前提にメンテナンスを入念に行いたい。クルマのユーザーにも自衛手段が求められている。
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