■壁に直面するアウディと順調なBMW
思い起こせば、アウディは、17年前から「ワンモーショングリル」を展開し、グリルの巨大化で大成功を収めた。これに関しても、当初は多くの拒絶反応があったが、結果的にブランドイメージも販売台数も大いに伸びた。
しかし、現在のシングルフレームグリルは、巨大化が行くところまで行き、これ以上巨大化できない行き止まりにある。現在のアウディは、デザイン的な出口が見い出せない状態で、グリルに「唇(縁取り)」を付けるなどしてもがいている。デザイン的なインパクト不足のせいか、グローバル販売台数も伸び悩んでいる。
一方、巨大化を進めているBMWはどうかというと、順調に販売台数を伸ばしている。BMWのキドニーグリルは、もともとグリルの面積が小さく、面積だけを見れば、シングルフレーム化される以前のアウディに近かった。
キドニーグリルは長い歴史のあるBMWのデザインアイコンなので、それが巨大化すればインパクトは絶大。今のところ、この戦略は成功していると言えるのではないだろうか。
ところが、そのBMWを上回る勢いで伸びているのが、メルセデスベンツだ。メルセデスは特にグリルを巨大化していないが、グローバル販売台数は、ドイツ御三家のなかで最も伸びが大きい。これは主にSUVラインナップの拡充によって達成されているが、デザイン的なインパクトが薄くても、ドイツ御三家のなかで一番販売台数を伸ばしているのだから、さすが王者と言うべきか。
■グリルは巨大化の果てに消える?
このように、ドイツ御三家およびレクサスという高級車ブランドのデザイン動向だけを見ても、グリルの巨大化は一定の効果はあるが、決して決め手ではない。巨大化はいつか必ず行き止まりに達するから、いつまでも続けられるものでもない(当たり前ですね)。
しかし、それでもとりあえず行くところまで行くしかないだろう。ヴォクシーはついにヘッドライトがグリル内に入るほどグリルを巨大化したが、この流れは、顔の前面すべてをグリルにするまで続くのではないだろうか。そこまで行けば、もう小さくするしかない。次は一気にグリルを小さくしたり、グリルをなくしたりしてしまえば、新たなインパクトを生むことができるだろう。
メルセデスはグリルを巨大化することなく販売を伸ばしているが、実はそのメルセデス、アメリカでの販売台数では、テスラに抜かれている。昨年のテスラ販売の大半が、グリルレスのモデル3だった。
クルマのEV化が進めば、巨大グリルはいつか、過去のノスタルジーになるだろう。現在の巨大グリルは近い将来、肩パッド入りのスーツのような存在になる可能性がある。
■巨大化グリルの賞味期限
しかし、巨大グリルもグリルレスも、一種のファッションであり、そこに絶対的な善悪はない。ビジネス的には多くの人が買いたくなる形が善だが、その基準は時の流れによってどんどん変わって行く。
古典的カーマニアの多くは、現在のグリルの巨大化を嘆いているが、それは自分の価値観と合わないだけ。しかたのないことなのだ。
私は若い頃、斉藤由貴や石原真理子のような太い眉の女性が大好きで、安室奈美恵の細い眉に強い拒絶反応が出た。今でも女性の眉はきりっと太いほうが好みで、価値観が変わっていない。グリルの大きさはそれに近い。女性の眉が「細すぎて品がない!」と思うのは自分の勝手で、それを周囲に押し付けることはできない。
結論として、グリルはデカけりゃいいというものでは決してないが、今はそのほうがインパクトを出しやすい。それに尽きるだろう。
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