■プラットフォームがもたらす走りへの影響とは?
衝突安全性能の高いボディは、当然ながら強度・剛性面でも優れているはずだから、操縦性やハンドリングでもプラスの効果がある。もちろん、この辺はサスペンション設計との兼ね合いもあるから単純イコールではないのだが、新しいプラットフォームは操安性の面でも旧型より高い潜在能力を持つことは間違いない。ただし、この面では国産車にはまだ課題が多いと思う。
クルマ好きの素人は、ボディを固めてサスペンションが正確に動くようになれば、優れた操縦性が実現できると考えがち。確かにアフターパーツで足回りをいじる時には、こういうやり方が常道だ。
ところが、量産車は操安性以外にも克服すべき課題が山ほどある。というか、むしろ優先順位は逆で、騒音振動特性や乗り心地性能を確保したあとで、操安性を取りまとめるといってもいいほど。
新型プラットフォームでモノコックのねじり剛性**が2倍になろうが、サスペンションやサブフレームのブッシュ特性を変えただけで、その何倍も変形コンプライアンスが生じるんだから、ボディだけでできることなぞかぎられていると思ったほうが正解に近い。
つまり、ほかに何も変えないでボディだけ新型プラットフォームに入れ替えても、操安性や乗り心地の変化はさほど大きくないのだ。
もちろん、トヨタのTNGA、スバルのSGP、スズキのハーテクトなど、プラットフォームを一新したクルマは走りっぷりも明らかに向上はしている。
ただ、それは同時に行われたサスペンションまわりの改良や、操安性を造り込む実験部の人たちのスキルアップなど、クルマ造りの総合的な進化のなせる技。新型プラットフォームはその重要な一翼を担っているものの、それがすべてではない。
■「10%ねじり剛性UP」などの言葉に惑わされるなかれ
新型プラットフォームが登場すると、広報資料などに「従来型よりねじり剛性が●●%アップ」といった文字が躍る。この数字はちょっとクセモノだと思ったほうがいい。
数字にこだわるドイツ人らしく、『ジャーマンカーフォーラム』というサイトにさまざまなクルマのホイールベース間のねじり剛性数値が掲載されているが、低いクルマで10kNm/度以下、本格スポーツカーだと40kNm/度以上の数字が並んでいる。
一応この数字を信用して眺めてみると、試乗の実感とねじり剛性値にあんまり関連性がないのがわかる。象徴的なのは、ポルシェ911(996)のクーペとコンバーチブルの差。クーペが27kNm/度に対して、コンバーチブルは半分以下の11.6kNm/度しかない。
実際に試乗してみると、911のコンバーチブルは「オープンとはいえさすが911。並のクルマとは比較にならないほどガッチリしてるなぁ」といった印象なのだが、ホイールベース間のねじり剛性だけをみると、そのへんの大衆車にも負けているのだ。
つまり、人間がクルマを運転して感じる“剛性感”を高めるには、ねじりや曲げなどの剛性数値などより、振動がビシッと減衰されているほうが重要ということ。路面からの入力をしなやかに受け止めて、 ガタピシと変な振動が発生しなければ、あとは演出次第でどうとでも表現できるのだ。
例えば、ヤマハが開発したパフォーマンスダンパーは、ボディの振動を抑え込む狙いで造られた、いわば演出用のパーツ。どんなクルマでもボディが多少変形するのは避けられないが、それが変な振動になると悪影響が大きい。楽器がルーツのヤマハは、その辺よーくわかっているってことですね。
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