高速バスを利用するのは、地方在住者が多いというデータがある。都市部から観光地へ向かう人も少なからずいるが、地方から別の都市へ移動するのに使う人が相当数存在するのだ。
回復しつつあるが、未だコロナ禍の影響から乗客の減少は目立っている。だからこそ、今利用者のニーズに応えるダイヤやサービスといった面が大切なのだ。果たして今必要な改善ポイントとはなんだろうか!?
(記事の内容は、2021年9月現在のものです)
執筆・写真/成定竜一
※2021年9月発売《バスマガジンvol.109》『成定竜一の高速バス業界一刀両断』より
【画像ギャラリー】海外で活躍する日本のマイクロバスと不思議なバス(5枚)
輸送人員は7割減ペース
コロナ禍の影響を受け、本校執筆(8月末)時点で、全国の高速バスは運行便数で平年比約6割減、輸送人員7割減という状況だ。一方でワクチン接種も進んでおり、収束後に向け準備に入る事業者も出始めた。
大まかにいえば、短・中距離の昼行路線は需要に合わせ徐々に復便を目指す。一方、夜行路線の場合、もともと収益性が低く損益分岐点すれすれという例が多いので、運行再開に二の足を踏む例が多い。
JR系事業者は近隣の路線を統合し効率化を進める方向だ。単独運行の首都圏路線を多数持つ弘南バスなどは、自社内で路線再編を図っている。今後は、事業者間の垣根を超えた夜行路線の再編も見られるだろう。
意外にも新路線も目立つ。郊外から都心への通勤高速バスや、アウトレットなど近郊の観光地への短距離路線が中心だ。これらは、余剰リソースの活用や、観光庁の補助金の利用が真の目的だが、「コロナ新路線」から、わずかでも定着する路線が生まれることを期待している。
路線再生のポイントは?
当社では様々なタイプの事業者、高速バス路線のアドバイザリー業務をお引き受けしている。ふだんは運賃施策やプロモーション手法といった戦術的な(つまり、足元での収益増を目的とした)ご相談が多いが、今春あたりからは戦略的な(長期的な路線の存続と成長に向けた)内容が目立ってきた。
そんな時は、原点に戻るよう提案する。現在(というかコロナ前)の、その路線の乗客はどんな人たちなのか、把握するのだ。まずは数字(データ)でざっくりと、次に具体的な利用者や利用シーンの「像」を描く。
国交省のデータを元に、高速バスの乗客を都市部側と現地(地方部)側というように居住地で分類すると、多くの路線で「1対3」くらいとなる。高速バスは、現地側の人の利用に支えられているのだ。
「データ分析」としては初歩の初歩だ。だが、この数字が戦略を考える起点になる。ある事業者の役員にこの数字を示すと「目に焼き付けておきます」と返事があったのが印象的だ。
現在のお得意様は現地側の人なのだ。だからこそ、予約方法や停留所の位置、そして運行ダイヤが、お得意様のニーズに合っているか、総点検することが第一歩になる。
たとえば運行ダイヤは、多くの路線が開業した1980年代には、起終点双方から等間隔で発車するダイヤが組まれる例が多かった。しかし、前述の通り現地側の人の利用が圧倒的に多い。現地側を早朝に発車し、なるだけ早い時刻に都市に着くダイヤと、都市を夕方以降に発車し深夜に現地に戻るニーズが大きいはずだ。
今日のダイヤを見ると、30年かけてそのニーズに忠実に対応し、改正を重ねて完成度の高いダイヤになっている路線もあるが、ほぼ原形という路線も少なくない。かつては覚えやすいパターンダイヤに意味があったが、ウェブ予約中心になった今日、優先すべきはニーズへの細かい対応だろう。