i-MiEV実現への道のり
好都合であったのは、ガソリンエンジン車として発売されたi(アイ)が、リアエンジン・リアドライブ(RR)の後輪駆動車であったことだ。
軽自動車界では、1993年にスズキからワゴンRが登場し、ハイトワゴンが販売の主力となっており、三菱自も2001年にeKワゴンを誕生させていた。しかし、実用性ばかりでなく、軽自動車でありながら持つことに誇りを持てる個性豊かな車種があってもいいのではないかとの発想で生まれたのが、アイだった。外観の造形に凝り、室内の空間やダッシュボードなどの造形も特別な雰囲気を与えた。
このパッケージングを見たEV開発者たちが、客室の後ろへ搭載されたエンジンや変速機をそのままモーターや制御系に替えれば、EVができるのではないかと目を付けたのである。また、RRの造形によって、前後タイヤ間のホイールベースが長い点も、床下へバッテリーを車載するうえで活用できると考えられた。RRによるグリルレスな顔つきも、EVに適していた。そして、i-MiEV実現へ向け、開発は大きく前進したのである。
ここでも、東京電力、中部電力、九州電力といった電力会社の協力により、EV性能の確認が進められた。EVであっても、車両開発は自動車メーカーの知見が活かされるが、バッテリーへの充電などは未知の分野である。
市販するとなれば、消費者が容易に急速充電でき、かつ感電などの不安なく利用できる安全の確保が求められる。そして新たに、全国のほかの電力会社も実証実験に加わり、検証が重ねられていった。EV生産は、アイの生産を行っている岡山県の水島工場で、エンジン車と混流で行われることになった。
i-MiEVは、ランサーエボリューションMIEVと異なり、インホイールモーターではなく、一つのモーターをアイのエンジン搭載位置に車載し、これを左右の後輪へ伝達する。したがって、i-MiEVのMiEV(ミーブ)は、三菱・イノベイティブ(革新的)・エレクトリック・ヴィークルの意味になる。
i-MiEVは、ガソリンエンジン車のアイと違った乗車感覚をもたらした。そもそもホイールベースが長く、後輪駆動であっても直進安定性に優れるアイであったが、i-MiEVとなることにより、床下に車載するリチウムイオンバッテリーの重さが低重心をもたらし、より安定性の高い走行をもたらした。ガソリンエンジン車のアイの軽快さは失われたが、重厚な走行感覚は、軽自動車であることを忘れさせる快適さを伝えた。もちろん、静粛性は格段に高まり、上質さも増している。
軽自動車の常識的な商品性を覆すi-MiEVの走行性能は、三菱自関係者さえ驚かせるほどで、次期型への期待は高まった。軽乗用EVの価値は、欧州でも認識され、PSAのプジョーiOn(イオン)や、シトロエンC-Zero(シー・ゼロ)として販売された。
しかし国内においては、初期の販売価格が軽自動車としては高額な459.9万円であったこともあり、販売面で苦戦を強いられた。軽自動車は、EVとしての価値が大きいとしても、価格が重要であることを改めて認識させられた。
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