2022年9月1日発売となった新世代のクラウンクロスオーバーは、ほかにセダンとエステート、そしてスポーツとの合計4つのバリエーションを持っている。
先代までのクラウンはセダンのみであったが、細かく見れば様々なバリエーションを持っていた。中心となったのはロイヤルやアスリートだったが、それとは一線を画す存在だったのが「マジェスタ」だ。
ロイヤルよりもさらに高級な存在として、1991年に初代が誕生、セルシオと同じV8エンジンを搭載し、クラウンを超えた存在感を持っていた。
そんなマジェスタはなぜ登場し、そしてなぜ廃止されてしまったのか? 孤高のマジェスタを振り返ろう!
文/斎藤聡、写真/TOYOTA、ベストカー編集部
■トヨタの歴史の狭間に登場したプレミアムセダン
クラウンマジェスタは、一口に言ってしまえば、トヨタがメルセデスベンツやBMWなど世界のプレミアム自動車メーカーと肩を並べる真のグローバルメーカーに成長する狭間に生み出されたプレミアムセダン、ということだろうと思います。
1980年代、トヨタは生産規模こそ世界有数の自動車メーカーに成長していましたが、世界の認識では安くて壊れない大衆車メーカーでした。そんな評価を打ち破り、プレミアムセグメントに進出したいと考えていたのでした。
そこでトヨタは1984年「マルFプロジェクト」を始動します。マルFはフラッグシップを意味しています。トヨタの高級車販売網「レクサス」の設立と、そこで販売するためのフラッグシップカーの開発を行うためのプロジェクトでした。
背景には、国内好景気を受けて高級車志向が高まっていたことが挙げられます。トヨタ車でいうと、クラウンが最上位機種であり、それ以上を求めるユーザーの上級志向に対する受け皿がありませんでした。その結果、メルセデスベンツやBMWに乗り換えてしまうという悩みを抱えていたのです。
また、レクサスの主要拠点である北米に工場を作り生産を行えば、当時問題になっていた日米貿易黒字問題……輸出(台数)枠の自主規制の枠外で販売ができることになるわけです。
マルFプロジェクトは、単に高級車販売網を作るだけでなく、北米に工場を作り現地生産することも視野に入れており、輸出枠に余裕を持たせることができるといったメリットもあったのです。
そんなわけでマルFプロジェクトは、徹底的にリサーチを行い高級車を所有する人のライフスタイルや高級車に対する期待や要望を調査しました。そうやって作られたのが1989年に登場した初代レクサス LS(日本名セルシオ)でした。
セルシオの登場は世界中の自動車メーカーに大きな衝撃を与えました。Cd値0.29は当時ぶっちぎりの空気抵抗の少なさでしたし、空気抵抗の小ささを生かして徹底した騒音対策を施しました。
結果、それまでトヨタを格下に見ていたフシのあった欧米のプレミアムカーメーカーを震撼させるほど静かなラグジュアリーセダン(当時)を作り上げたのです。そしてそれはメルセデスベンツのクルマ作りにも大きな影響を与えることになりました。
さて、世界に向けて躍進するトヨタですが、国内ではなかなか繊細な問題を抱えていました。
トヨタは、国内では1955年から日本一良いクルマ=クラウンとして販売を行ってきました。1987年に登場した8代目クラウンでは「いつかはクラウン」というキャッチフレーズが全く陳腐ではなく、むしろいつかはクラウンに乗りたいと思わせるほどブランド力を高めていたのです。
そんな好調なクラウンの売れ行きの裏で、トヨタはクラウンを超えるプレミアムカーの開発を進めていたのです。それだけにクラウンにロイヤルティを持つ保守的なユーザーに対する手立てがとても重要な案件だったのです。
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