■ミニマムモデルがインプレッサという利点
TEXT:井元康一郎
負の連鎖をなかなか止めることができないスバル。「これで問題は収束」というたびに新たな問題が起こり、そのたびにバッシングを浴びる。
そのいっぽうで稼ぎ頭の米国はトランプ大統領による関税引き上げの行方が不透明で、もし関税が25%になればこれまた大打撃を食う恐れがある。
利益、販売台数を大幅に減らし、株価も暴落したスバルはこの先、復活を果たすことができるのだろうか。
結論から言えば、出血をここで止めることができれば、ふたたび成長軌道に乗ることは充分に可能だ。が、そのためにはビジネスをもう一度しっかり見直す必要がある。
スバルは一連の問題が起こるまでは、世界の自動車メーカーのなかでも屈指の高収益企業になっていた。
メルセデスベンツを擁するダイムラーやBMWなど、利益率が高いとされるプレミアムブランドのメーカーよりも利益率が高かったのである。
なぜ利益率が高かったのか。それは単に安物を作り、高い値段で売っていたからではない。スバルには2点の”特殊要因”があった。
ひとつは一番小さな自社製のモデルがインプレッサであること。それ以下の軽やサブコンパクトと呼ばれる利益の小さなモデルを手がけておらず、プレミアムブランドと同じく利益を出しやすいビジネススタイルを確立していた。
もう一点は、日本から米国に大量輸出を行っていたこと。2018年11月13日現在、日本円と米ドルの為替レートは114円前後であるが、デフレが長年続いた影響で、日本円の本当の価値はそのレートよりずっと高い。
日本からの輸出が多かったスバルは、実質円安を追い風にいくらでも儲けを拡大できたのだ。それに味をしめたスバルは、いつの間にか米国市場べったりの商売に傾倒してしまっていた。
それがトランプ大統領の輸入車に高関税をかけるという方針を打ち出したことで、一気に冷や水をぶっかけられた格好となった。
このふたつのうち、利幅の小さいサブコンパクトカーや軽自動車を自前でやらないという点は変える必要はない。変えなければいけないのはモノづくりの姿勢。
品質や性能を大事にする体制を着実に構築し、ユーザーにもう一度信用してもらうことだ。一連の問題がいちばん影響したのは足もとの日本市場であり、今のところ世界販売には大きな影響は出ていない。
が、日本でモノづくりの姿勢がこれ以上問題視されると、情報が世界に伝わり、悪影響が出る恐れは充分にある。
■クルマのよさは健在 慢心を捨て信頼を取り戻す努力を
TEXT:井元康一郎
幸いにして、スバル車はクルマとしては非常にいいものを持っている。例えば今年フルモデルチェンジされたSUV、フォレスターは、スタイルこそ地味だが、ドライブしてみるとまるで高級車のような素晴らしい乗り心地と静粛性を持っている。
また、これはスバル車全般に言えることだが、悪天候や雪道での安定性もきわめて高い評価を得ている。そういうよさが伝統的にあったからこそ、スバルにはスバリストと呼ばれる固定客がついていたし、それがなければいくら販売を頑張っても米国でここまで販売台数を伸ばすことはできなかったであろう。
だが、その基盤はまだまだ脆弱だ。このところスバルの販売を急伸させた原動力は伝統的なファンではなく、スバルの評判を好感して買った新参ユーザーだからだ。
それほど強固な支持層でない彼らは、何か問題があれば離れてしまいやすい。
そうなるとスバルのビジネススケールは、コアなファンが主体だった時代に逆戻りしかねない。スバルは”クルマ自体はいいのだからユーザーはついてくるはず”という慢心を捨て、品質への真剣味を世間にしっかり伝えるべき。
もう一点の米国の関税問題は、スバルにとってはもっと厄介だ。
これまで米国市場があまりにうまく行っていたため、クルマのボディサイズ、排気量からキャラクターまで、ほとんど米国を向いたものになっていた。
経営データを見ると、米国の現地生産は輸出に比べて利益がきわめて薄く、関税がかけられたら米国で作れば解決するというものではない。
といって今のラインナップでは米国以外の国でのビジネスを拡大させて補うのも難しい。スバルが本当に復活するには、米国一本足打法をやめて、本当の意味で世界のスバルと言われるようなバランスのいいモデルラインナップを整備しなおす必要がある。
が、これには長い時間と強い意志が必要だ。それを成し遂げられるかどうか、スバルのこれからの”再チャレンジ”に注目したい。
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