■複雑な思いを抱く販売現場
それでは車名別で軽自動車では常勝となるN-BOXを抱えるホンダの販売現場はさぞかし湧き上がっているかといえばそうでもない。N-BOXがほかのホンダ車を“共食い”してしまっているのである。
例えば、フィットやフリードを見にディーラーを訪れたお客さんがいたとする。しかしN-BOXの展示車が置いてあると知名度もあるので興味を示し、人気モデルでもあるのでリセールバリューも高いことなどもあり、「こっちでいいじゃないか」ということでN-BOXに決まってしまうケースが実に多いそうだ。
トヨタディーラーのセールスマンならば。それでも偏らないように“売り分ける”こともできるが、ホンダディーラーは伝統的ともいっていいほど、お客さんの希望を最優先にしてクルマを売ってしまう傾向が強い。
それでも他メーカーに流れずN-BOXを買ってくれるのだからいいじゃないか、という話もあるが、軽自動車ではやはり1台当たりの利益が少なすぎる。ダイハツやスズキなど軽自動車をメインに販売する新車ディーラーでは、軽自動車販売ありきで販売体制を組む。
だが、シビックやステップワゴン、ヴェゼルなどまでをそろえて販売することを前提としているホンダディーラーでは、幹線道路沿いに大きな店舗を構えていたりするので、軽自動車など台当たり利益の少ない車種ばかり売れていると、店舗運営も苦しいと聞いたことがある。
いまは節電が広く叫ばれているので状況は異なるが、以前筆者が経験したところでは、夏季にホンダディーラーを訪れた時ずいぶん暑いなあと思い、トイレに行く時にエアコンの温度表示を見たら“28度”になっていて驚いたことがある。
また冬季に訪れると「寒かったら使ってください」とひざ掛け毛布を渡されたことがある。
利益の薄いN-BOXばかりが売れているからだけではない。ホンダだけでなく、軽自動車ユーザーのなかには納車後のアフターメンテナンスを新車ディーラーで受けない人が目立つ。例えば車検はより安い、ガソリンスタンドや格安車検専門店などを利用する人が多いのである。
いまの新車ディーラーでは、軽自動車以外でも新車を売ったことによる利益などは限られているので、点検・整備、それに伴う物販などを強化している。そのような納車後の収益もなかなか見込めないN-BOXがよく売れるのは、見た目にはないきつい部分もあるようだ。
事情通は「私が聞いたところでは、N-BOXをはじめ軽自動車を納車する時に、『納車後は弊社でメンテナンスを受けてもらえますか?』と聞き、その意思がないとの返事があると定期点検のお知らせなどのDM(ダイレクトメール)をコスト削減のために送らないという店舗もあると聞いたことがあります」と話してくれた。
■軽自動車は「禁断の果実」
支払総額で600万円も珍しくない、高収益車種となるアルファードを年間10万台ほど販売するトヨタとて、その系列ディーラーの経営はけっして楽なわけではない。軽自動車は薄利多売なだけでなく、販売後のアフターメンテナンスも登録車ほど期待できない部分もある。
登録車しかやってこなかったメーカーが軽自動車の扱いを始める時には、“禁断の果実に手を出すようなもの”とも過去にはいわれた(それもありトヨタはいまでも慎重な姿勢を見せている)。
売りやすいので現場のセールスマンも軽自動車ばかりを売るようになるとも聞き、店舗の客層や雰囲気も現役子育て世代などが目立つなど大きく変わり、大型高級車に乗っていた富裕ユーザー層が他ブランドへ流出するといったこともあったようだ。
何事もバランスが大切とはいうが、新車販売でもバランスを取ることは当然大切なのである。
ただし、N-BOXがほかの軽自動車と少し違うのは“リピーター”が目立つこと。見た目以外、スペックとしては大きく変わらないのが軽自動車。そのため、登録車へ移行するケースは少ないようだが、メーカーを渡り歩いて乗り継ぐ人も目立つようだ。
そのなかで、N-BOXからN-BOXへと乗り継ぐ人が目立つそうである。そのように乗り継ぐ人は逆にディーラーでメンテナンスを受ける傾向が強いようだが、全体の入庫率となると登録車よりは期待できないようである。
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