海自潜水艦に燃料電池は時期尚早!? 新型潜水艦「たいげい」型から見える潜水艦の動力事情

■海自潜水艦の動力装置の発展と進化

 様々な理由から原子力潜水艦を保有できない日本では、通常動力型潜水艦を装備するしかない。海上自衛隊の潜水艦が搭載した動力機関の変遷を見てみると、潜水艦が更新されるたびに改良を重ねた新しいディーゼル動力機関(ディーゼル・エレクトリック方式)が搭載されてきた。

 そこに変化をもたらしたのが2009年に1番艦が就役した「そうりゅう」型であった。「そうりゅう」型は「おやしお」型の次級となった潜水艦で、推進装置を回す電動機の動力源としてディーゼルエンジン、主バッテリー(鉛蓄電池)、AIPシステム(スターリングエンジン)を持つ新しい機関方式を取り入れた艦だった。

大気を必要としないAIPシステムを搭載することで長期間の潜航を実現している
大気を必要としないAIPシステムを搭載することで長期間の潜航を実現している

 ディーゼルエンジンは大気が必要なので、浮上中あるいは潜航中にシュノーケリングで可動させ、発電機を回して電動機を動かしたり蓄電池の充電を行なう。一方、AIPシステムは液体酸素とディーゼル燃料(低硫黄ケロシン)を使用することで稼働し、発電機を回し電動機を動かす。これによりシュノーケルを使わずに従来よりも長時間の低速潜航が可能になり、鉛電池の容量も温存できる。

 こうした利便性から「そうりゅう」型が就役し始めた頃は、AIPシステムが通常動力潜水艦の能力を向上させるものとして大きく注目されていた。しかしAIPシステムは大きさの割には出力が低く、高速力を必要とするときは蓄電池か浮上してディーゼルエンジンを使い発電機を稼働させ、電動機を動かさねばならなかった。

 そこで「そうりゅう」型潜水艦の11番艦「おうりゅう」ではAIPシステムと鉛蓄電池の主バッテリーを廃止し、リチウムイオン蓄電池を搭載するように再設計された。AIPシステムと鉛蓄電池が置かれていたスペースに大型のリチウムイオン蓄電池を搭載したのである。潜水艦でリチウムイオン蓄電池をディーゼルと組み合わせて使用するのは世界初の試みであった。

AIPシステムを廃止することで大容量のリチウムイオン蓄電池を搭載した
AIPシステムを廃止することで大容量のリチウムイオン蓄電池を搭載した

■リチウムイオン電池とはどんなもの?

 リチウムイオン蓄電池とは電極(正極と負極。正極材料と負極材料は異なるものが使われている)の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行なう二次電池のことだ。ちなみに潜水艦で使用されている従来の鉛蓄電池は電極に鉛が使用されている。

 リチウムイオン蓄電池は短時間で大容量の電力が蓄えられるため、シュノーケリングによる充電時間が短縮でき、放電効率が良く大電流放電が可能。そのため連続で高速航行を行なったり、低速長時間航行の期間を延ばせるのだ。これまで最大2週間程度だった潜航期間が格段に伸びたといわれている。

 また潜航中に接敵や攻撃回避で高速で艦を移動させなければならない場合にAIPでは力不足だったが、蓄電量が多いリチウムイオン蓄電池ならこの問題を解決できる。さらにリチウムイオン蓄電池は従来の鉛蓄電池に較べて寿命が長いという長所もある。

 ただしリチウムイオン蓄電池は長所ばかりではなく、大きな短所がある。可燃性の電解液を使用しているため、過充電で電池の温度が上昇すると発火する危険があるのだ。潜水艦に搭載する大型の蓄電池では冷却装置などの安全対策が必要になる。

■期待が高まる燃料電池搭載艦の登場

 「そうりゅう」型の後継となる次世代型潜水艦は、ディーゼルエンジンおよび発電機、リチウムイオン蓄電池、燃料電池を組み合わせた機関方式を搭載する予定だった。燃料電池は純酸素と純水素を使い電気化学反応を起こさせて発電する方式で水中航行時に使用する。そのため艦内には液体酸素と水素を貯蔵するタンクを持ち、燃料電池から発生する余剰の熱は熱交換器と冷却水循環システムで回収する方式になっていた。

燃料電池を搭載することが考えられていた次世代潜水艦
燃料電池を搭載することが考えられていた次世代潜水艦

 通常、水素と酸素の反応は爆発して瞬間的に大きなエネルギーを放出するにすぎない。それでは動力の燃料源として使用できないので、還元剤の水素と酸化剤の酸素を直接反応させるのではなく、電解液を媒介として反応させてやる。こうすると爆発やそれにともなう瞬間的な発熱を起こさずに水素と酸素の燃焼反応によって発生する化学エネルギー(熱)を電気エネルギーとして取り出そうというのが燃料電池の発想である。

 燃料電池の潜水艦への利用は、1980年代からドイツが本格的に研究を開始しており、ドイツ海軍の保有する潜水艦212型は燃料電池推進システムを使用している。燃料電池は反応によってできる水を艦内に蓄えるため艦全体の重量変化がなく、深度に関係なく使用できるうえ、無音で低出力時の効率が良いという利点がある。

 ところが燃料電池の開発が遅れ調達コストも高騰する見込みから次世代型潜水艦では燃料電池の搭載をやめ、「そうりゅう」型の11番艦以降の艦と同じ機関方式のディーゼルエンジンおよび発電機、リチウムイオン蓄電池という組み合わせになった。これが「たいげい」型であった。4番艦以降ではリチウムイオン蓄電池を効率よく使用するための新型ディーゼル機関が開発され搭載することになっている。

「たいげい」型4番艦からは、新型ディーゼル機関が搭載される予定
「たいげい」型4番艦からは、新型ディーゼル機関が搭載される予定
【画像ギャラリー】海自潜水艦の主力「そうりゅう」型、「おやしお」型を振り返る(3枚)画像ギャラリー

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

あのトヨタスターレットが再び公道に舞い降りる!? 日産×ホンダ協業分析など新社会人も楽しめるゾ「ベストカー5月10日号」

トヨタの韋駄天が覚醒する! 6代目NEWスターレットのSCOOP情報をはじめ、BC的らしく高級車を大解剖。さらに日産・ホンダの協業分析、そして日向坂46の富田鈴花さんがベストカーに登場! 新社会人もベテランビジネスマンまで、誰もが楽しめるベストカー5月10日号、好評発売中!