超モーレツ勤務とリストラ戦略は正しいのか? C・ゴーンとE・マスクの手法の共通点と相違点

改革しようにもできなかった

 NRPの陣頭指揮を執ったゴーンは、マスコミから、「社員の生活を考えず冷徹に切り捨てたフランス人」と、大バッシングされていた。ただ、日産の組織の弱さが原因となって招いた病気を治すための荒療治として、必要だったと筆者は考える。

 「リストラ」ときくと、弱い立場の社員をクビ(自主退社)に導くような、悪いイメージが先行するが、「リストラ」は「re-structuring(リストラクチャリング)」、つまり、組織再編や再構築という意味。1990年代ごろの日産は、組織が凝り固まり、既得権益を守ろうと社内政治が強く働き、改革なんてできない状況だったそう。営業、車両開発、車両生産といった各セクションの間で言い争いが絶えなかったそうで、クルマが売れない理由を、開発サイドは「営業の仕方が悪い」、営業サイドは「クルマの性能が劣っているから売れない」といったように、他責にして擦り付け合う風土だったそうだ。

クルマが売れない理由を、開発サイドは「営業の仕方が悪い」、営業サイドは「クルマの性能が劣っているから売れない」と、擦り付け合っていたそう(PHOTO:Adobe Stock_Prostock-studio)
クルマが売れない理由を、開発サイドは「営業の仕方が悪い」、営業サイドは「クルマの性能が劣っているから売れない」と、擦り付け合っていたそう(PHOTO:Adobe Stock_Prostock-studio)

 また、海外との仕事をする一部の部署では、昼間は普通に働いて、夜間に海外と電話ミーティングを行い、翌朝には宿題を回答する(つまり徹夜作業)といった激務を行う部署もある一方、昼間は銀座で寿司を食べ、定時退社で飲みに行く部署があるなど、社内でも差が大きかったそう。年功序列の給与体系も強く、誰しも順番通りに出世して、勝手に給料が上がる。強力な労働組合によって全ての社員は守られ、会社の利益が出ていないのに給料は上がるという状況。組織としては「改善、改革」を口にするが、まったく変わろうとしない文化が蔓延していたそう。巨大な会社が傾くのも、仕方ないことだったのかもしれない。

 もちろんリストラには、手厚い退職金も支払われたそうで、その時点で会社に不平不満を持っていた人は、みな日産を辞めていったそうだ。会社に残った人は、日産車が好きだった人、日産の行く末を見守りたかった人、日産が改革することを願っていた人(住宅ローンの支払い完了までは残りたい定年間近の人も)が、多かったそうだ(筆者の元上司も日産車が好きで仕方なかった人だった)。

 これによって、2000年以降、「コミット&ターゲット」(査定の仕組み)の設定による昇給と昇進の新ルールや、部署を横断したタスクチーム活動、他部署と連携の取りやすいオフィスの建設など、一気に社内の仕組みやシステムが変わっていった。残った社員がそれぞれの持ち場でできる改革を積み上げていった結果だ。やはり組織を再構築するには、従業員を見直すことを最初に行うべきなのだ。

組織を再構築する際には、よくない風土を一新するためにも、最初に従業員を見直すことは必要(PHOTO:Adobe Stock_shironagasukujira)
組織を再構築する際には、よくない風土を一新するためにも、最初に従業員を見直すことは必要(PHOTO:Adobe Stock_shironagasukujira)

時間ではなく、アウトプットを約束して働くことも必要では

 イーロン・マスク氏は、テスラとスペースXに加えて、ツイッター社も経営することになった際、「週80時間働いていたのを120時間にするだけだ」とジョーク交じりに話したそうだが、週80時間であっても、なかなかのハードワークだ。冒頭で触れたように、マスク氏は従業員に対しても、激務に耐えられないようなら退職を迫ったとされているが、それが本当だとしても(マスク氏がどのような状況や条件でその発言をしたのかはわからないが)企業が赤字から脱して体質改善するには、アウトプットを約束して、上限時間を決めない仕事も、ときには必要。

 もちろん、アウトプットに見合う報酬を得られることはセットで必要ではあるし、「激務」にも程度があるのももちろんなのだが、筆者は「会社員」とはそういうことではないかと考えるが、どうだろうか。

【画像ギャラリー】カルロス・ゴーンが取り組んだ「日産リバイバルプラン」によって開発されたクルマたち(31枚)画像ギャラリー

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