最新多段ATの長所と短所
CVTやDCTが登場する前は、ATといえば今でいう“ステップAT”が主流。昔は“トルコンAT”なんて言う人もいた。
基本的な仕組みは、MTのクラッチをトルクコンバーター(=トルコン)という流体継手で置き換え、その下流にプラネタリーギア(遊星歯車)を使った変速メカニズムを組み込んだものといえる。
プラネタリーギア機構は、中心のサンギア、遊星歯車を掴むキャリア、その側のアウターギアで構成されるが、この3つのうちどこかを停止させると入出力ギア比が変わったり逆転したりする。このプラネタリーギア機構を2〜4組使うことで、4〜10速のATを構成しているわけだ。
CVTやDCTなど新しいATが登場したことで、ステップATが時代遅れと見られた時期もあったが、最近その巻き返しぶりはすさまじい。
レクサス LCや北米仕様のホンダ アコードではついに10速に到達したことで多段化ではDCTを凌ぎ、レシオカバレッジ(=発進ギアと最高速ギアの比率)は9を超えてこの項目が苦手なCVTを圧倒。マニュアルシフトのレスポンスでも定評あるDCTといい勝負をするようになってきたし、トルコンを備えるからDCTの苦手な渋滞にも強い。
以前から、ドライブフィールに関しては、最も自然かつスムーズなのがステップATという定評があったから、燃費性能やシフトレスポンスがよくなれば“鬼に金棒”。一時期イケイケだったDCTは今や劣勢に立たされているといっていい。
また、今やATは電動化と無縁ではいられないが、トルコンを電気モーターに置き換えることで、ステップATは容易にハイブリッド/PHEV化が可能。日産、ベンツ、BMWがそのパターンで量産化しているし、横置きではアイシンが8速ハイブリッドATを開発し、シトロエン DS7への供給が始まっている。
欠点といえば、機構が複雑で制御系に多板クラッチを多用するため、ほかのATに比べて内部フリクションが大きいことだが、これも最新モデルでは相当に改善されていて、トータルなロスではCVTやDCTと大差なくなってきている。
もうひとつ気になるのは、多段化を狙うとコストが上昇することで、プラネタリーギア機構を3組以上使う8速とか10速はほぼ高級車専用。庶民は6速までで我慢というのがちょっと残念なところだ。
小型国産車で主流のCVT その長所と短所は?
トランスミッション技術者にとってCVTはひとつの理想形。エコランするにしても加速するにしても内燃機関のスイートスポットは狭く、常に最適ポイントを維持できるCVTが理論上ベスト。それゆえ、昔からさまざまなCVTが研究開発されてきた。
そのなかで、現状広く普及しているのが金属ベルト(またはチェーン)とプーリーを組み合わせたCVTだ。
相対する面がコーン形状の円盤2枚でひとつのプーリーを構成し、2枚の円盤に狭まれたV字型の谷にベルトがかかっている。円盤同士の間隔が広がるとベルトは谷底に降りていき接触半径が小さくなり、間隔が狭まるとベルトは円周方向にせり上がって接触半径が大きくなる。2つのプーリーの間で有効半径を連続的に変化させることで、変速比が無段階に変わってゆくわけだ。
こう書くと単純な仕掛けのように感じるが、問題はベルトもプーリーも金属であること。そのまんまでは滑るばかりでロクにトルクが伝わらないから、プーリーへの強い押し付け圧力と剪断安定性の高い専用オイルが必要となる。
このあたりがCVTの弱点で、大トルクに対応するのが難しく油圧ポンプ駆動に食われる内部フリクションが大きい。モード燃費測定のような軽負荷では優れた効率を示すものの、連続高速走行のようなシチュエーションではほかのATより伝達効率が落ちる傾向がある。
その対策として、リダクションギアを入れてプーリー速度を落としたり(ダイハツ)、副変速機を組み合わせてレシオカバレッジを広げたり(ジヤトコ)といった改良が行われているが、基本的に金属接触でトルクを伝達している以上、大トルク/高負荷に弱いという基本特性は変わらない。CVTが小排気量車をメインターゲットとしているのはこの辺に理由がある。
もうひとつ、CVTの課題として加速時のラバーバンドフィール(エンジン回転が先行して車速があとからついてくる)がよくあげられるが、最近登場したトヨタのダイレクトCVTでは、発進専用のギアを導入することで発進フィールをかなり改善しているのが注目される。
発進ギアはトルコン直結だから加速フィールはステップATと同じようにリニアで、その後クラッチが切り替わってCVTにバトンタッチする頃には、すでにスピードに乗っているからアクセル開度も戻し気味でヘンな滑り感はまったくない。コロンブスの卵的なナイスアイデアだ。
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