後継車種が登場しない!? 選択の幅が限られていくバス車両

後継車種が登場しない!? 選択の幅が限られていくバス車両

 ある貸切バス事業者の営業担当者と雑談していた時のこと。ひとしきりコロナ禍による実質稼働ゼロの苦悩の話題でやり取りした後、車両の話になった。

 一般観光向け小型ハイデッカーを“延命”させて使わなければならないと悩まれているという。後継車種がないため、代替ができないのだ。

 今、メーカーのラインナップが絞られた結果、乗合バス、貸切バスを問わず車種・仕様の選択の幅が狭まっている。今後バスを活性化していくうえでこれがどのように影響するのか、まずは問題提起してみたい。

(記事の内容は、2021年5月現在のものです)
文・写真/鈴木文彦
※2021年5月発売《バスマガジンvol.107》『鈴木文彦が斬る! バスのいま』より

■市場規模とコストの狭間で

JRバス4社の共同企画で2020年12月に西日本JRバス京丹波営業所に集結した三菱ふそうエアロキング 製造中止から10年、おそらく最後のチャンスだった(右から西日本・関東・東海・四国)
JRバス4社の共同企画で2020年12月に西日本JRバス京丹波営業所に集結した三菱ふそうエアロキング 製造中止から10年、おそらく最後のチャンスだった(右から西日本・関東・東海・四国)

 現在、日本のバスメーカーはいすゞ・日野の協業によるジェイ・バスと、三菱ふそうトラック・バスの2つのグループに集約されている。

 しかしバス車両の市場はそれほど大きくはなく、各メーカーともトラックの市場に比べると、わずかなバスの市場に対してなかなか大きな投資ができる状況ではなくなってきていた。

 こうした中で、年々厳しくなる排出ガス規制(環境)への対応を進めるにあたってコストがかかる。

 そのため、実販売数の少ない車種や、中小型などかかるコストは大型並ながら、市場として(小さい・定員が少ないなど)価格を抑えざるを得ない車種については、順次新たな排出ガス規制への対応を行わず、製造を中止してきた経過がある。結果として車種のバリエーションは限られてしまったのが現状である。

 典型的な事例はダブルデッカーで、定期観光バスや定員確保が求められた高速バスでは一定の需要があったものの、年間の台数は数えられる程度であり、メーカーとして特殊なダブルデッカーの製造に力を割くことが決して合理的ではなかった。

 三菱ふそうが2010年を最後にダブルデッカーの製造を中止したことから、国産でダブルデッカーが導入できなくなった結果、現在スカニアの導入に至ったことはよく知られている。

■今後どうする中小型観光バス

 冒頭の貸切バス事業者が使用していた車両は、中型ベース7mサイズの三菱ふそう「エアロミディMJ」であった。

 ハイデッカーで車内も貸切バスとしてデラックスな仕様である。近年の需要の小規模化を反映して、大型とは違ったニーズがあり、それなりに稼働率も悪くなかった。だからできれば同じタイプで代替したいのが本音であった。

 しかし三菱ふそうはMJを2007年に製造中止、以後同クラスの車種はラインナップされていない。

 日野もミッドシップの「メルファ7」を設定していたが、いすゞとの協業に移行する2004年に中止、車幅の小さい「リエッセ(いすゞジャーニーJ)」も2011年に終了したので、7mクラスの貸切バスは現在選択のしようがなくなっている。

 9mクラスも同様で、観光仕様の日野「メルファ9」は2004年に、三菱ふそう「エアロミディMK」は2007年に終了したため、現在中型断面の9mクラスは自家用送迎などを主眼とする日野「メルファ」(いすゞ「ガーラミオ」)に多少グレードの高い仕様があるのみ(ハイデッカーの設定はない)となっている。

 このため小さめの車種を選ぶとすると、貸切バスで“中型”と呼ばれる大型断面の日野「セレガ」(いすゞ「ガーラ」)9mしか選択肢がない(三菱ふそうはこのクラスを2017年に中止)。MJを延命させて使用する以外方法が見いだせない事業者の悩みは続く。

次ページは : ■路線バスもられた車種に

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