ほぼすべての産業へ影響を及ぼす「AIの時代」気持ちよさや乗り心地を評価するテストドライバーの仕事は残るのか?

ほぼすべての産業へ影響を及ぼす「AIの時代」気持ちよさや乗り心地を評価するテストドライバーの仕事は残るのか?

 いま、対話形式でAIが質問に答えてくれるチャットボットが話題だ。人間が答えるよりも早く、かつ正確な回答を得ることができるチャットボットの進化からは、人間でなければできないことが減り、人間の仕事がAIに奪われていく世の中がすでにやってきていることがうかがえる。

 クルマに関しても、先進運転支援技術などの進化によって、人間が操作しなければならないことが徐々に減ってきている。また新車開発の過程でも、AIによる数値最適化や構造最適化など、これまで人間がやってきたことをコンピュータが行うようになった部分がある。

 ただ、今後どれほどAIが進化したとしても、人間でなければできないだろうと思う(自動車開発における)仕事はある。そのひとつが、テストドライバー(評価ドライバー)の仕事だ。

文:吉川賢一
写真:NISSAN、SUBARU、HONDA

乗って感じた意図しない現象を、定量的に示すのがテストドライバーの仕事

 新型車プロジェクトの開発担当者たちがつくりあげた試作車両に乗り、さまざまな観点から評価をするテストドライバー。「テストドライバー」ときくと、サーキットで限界走行を繰り返しているイメージをもつ人は多いだろうが、(もちろん限界走行も大切な仕事のひとつなのだが)実はもうちょっと地味だ。

 たとえば、走行中のステアリング入力に対し、前後加速度や左右加速度、ヨーレイトなどが、設計値通りに出力されているか、また、期待に外れた動き(意図していなかったピッチングやロール、ヨー挙動など)をしていないか、異常な振動が出ていないかなどを五感で突き止め、その現象を定量的(数値)に示し、エンジニアへ伝えることが、テストドライバーの仕事。走行した感想を述べるだけの我々評価者とは全く違う。

日産ではテストドライバーとエンジニアを明確に分けているが、スバルのようにエンジニア兼テストドライバーとなって実験を行っていくメーカーもある
日産ではテストドライバーとエンジニアを明確に分けているが、スバルのようにエンジニア兼テストドライバーとなって実験を行っていくメーカーもある

定量化できない領域がある以上、AIにテストドライバーの代わりはできない

 「データで表せるのなら、AIに置き換えることだってできるだろう」と思うだろうが、そもそも測定困難な領域の微小なデータはあるし、「シャープなハンドリング」とか「ダンピングの良い乗り心地」などのクルマの味付けについては、方向性が決まったあと、エンジニアによって最大旋回Gやヨーレイトゲイン、ロールアングルなどを(ある程度の領域で)定量的に落としこまれるが、定量化できない領域はどうしてもあり、定量化できなければAIに理解させることは難しい。

 また、最近多くの自動車メーカーが重視している、運転しているときに感じる「気持ちよさ」も、定量指標が突き止められていない。昔から、運転時の脳波や心電図、筋電図など、人間のデータについても研究されているが、人間のセンサーはかなり複雑にできているようで、特に人間が感じる「感動」のような情緒を表すデータを導くことは難しい。

日産の「トップガン」こと加藤博義氏。90年代の日産スポーツカー黄金期の車両運動性能の味付けを担当した評価ドライバー。2003年には厚生労働省より「現代の名工」受賞、2004年には「黄綬褒章」受賞
日産の「トップガン」こと加藤博義氏。90年代の日産スポーツカー黄金期の車両運動性能の味付けを担当した評価ドライバー。2003年には厚生労働省より「現代の名工」受賞、2004年には「黄綬褒章」受賞

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