ホンダの奥の手は、脅威の低価格戦略
インサイトで世界ナンバー1燃費の称号を得たホンダは、その後ハイブリッドカー技術を市販モデルへと展開する施策に出る。4ドアで実用性もある「シビック ハイブリッド」を“5人乗り量産ガソリン車世界最高の低燃費(2001年の発売時点)”として投入し、ハイブリッドカーブランドとしての地位を確立するいっぽう、小型車のフィットや軽自動車の開発にも注力していった。
だが、2代目プリウスが環境意識の高いハリウッドセレブなどに愛用され、ハイブリッドカーの枠を超えて支持されるようになると、今度はハイブリッドカー専用モデルであるインサイトでプリウスとの真っ向勝負を挑む。
2009年に発表された2代目インサイトは、1.3リッターのエンジン+モーターを搭載した5ドアモデルとし、初代とは異なる方向性でリリースされた。
新たに採用された燃費規格JC08モードで26km/L(10・15モード30kmL)の数値は、2代目プリウスには一歩及ばないものの、5ナンバー枠に収まるコンパクトさと、エントリーモデルの価格189万円がインパクトとなり販売予定を大幅に上回る人気を集めた。
実はこの発売タイミングは、3代目プリウスの発売予定に先駆けて実施されており、価格を見直しライバルに対する割安感を打ち出したものだった。
プリウスの逆襲! インサイトは惨敗…
これを黙って見過ごすトヨタではなかった。同年発表された3代目プリウスに205万円のお値打ちグレードを設定しつつ、型落ちとなる2代目プリウスにビジネスユースを前提とした「EX」グレードを新設定し、189万円の低価格モデルとして発売。両者は製品リリース直後から価格面で激しい攻防を繰り広げるのだった。
結果はプリウスの圧勝。3代目プリウスは2代目のトライアングル・シルエットのデザインを受け継ぎつつ、空力性能をさらにアップさせたボディにより世界トップレベルのCd値0.25を達成。1.8リッターに拡大されたエンジンと強化されたモーターは2.4リッター並みの出力を発揮。動力性能と高速走行時の燃費を両立することで、JC08モード燃費30.4Km/L(10・15モードでは38.0km/L)を実現。
ボンネットとリアゲートにアルミ素材を採用した軽量化に加え、太陽電池をルーフに搭載し、その電力で駐車中の車内の換気を行うソーラーベンチレーションシステム装着車も設定するなど、エネルギー効率の高いハイブリッドカーとしてさらなる完成度を見せつけた。
まさに新時代を告げるエポックとなった3代目プリウスはその年20万台以上売れ、前年新車販売台数トップだったホンダ・フィットからその座を奪取した。
さらなるホンダの奥の手は?
だが、ホンダには奥の手があった。翌2010年、2代目フィットに設定した「フィット・ハイブリッド」だ。主力コンパクトカーだったフィットに、インサイトのハイブリッドのパワートレインを移植。1.3リッターSOHC i-VTEC(88ps、12.3kgm)+薄型モーターは、インサイトの燃費と互角のJC08モードで26.4km/L(10・15モード30kmL)だったが、159万円~の価格設定とコンパクトカーならではの取り回しの良さ、フィットの売りであるセンタータンクレイアウトにユーティリティ性能で大ヒット。
これに対してもトヨタは、翌2011年にコンパクトハイブリッドカー「アクア」を169万円の低価格でリリースし、迎撃。JC08モード燃費35.4km/Lで当時の世界トップの低燃費を記録する。だが、これはパワーウィンドウが非搭載の手動式など装備を簡略化したグレードでの数値。ここにおいて燃費データをめぐる抗争はいよいよ何でもありの様相を呈し始める。
プリウス、アクアに先行を許したホンダは、2013年3代目となるフィットをリリース。エンジンからプラットフォームまで大変革を断行し、新ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド) i-DCD」を搭載することで、当時国内最高となるJC08モード36.4km/Lの低燃費を達成し、トヨタのハイブリッド勢に一矢を報いるのだった。
コメント
コメントの使い方ホンダや日産のHV車の燃費、レンタカーで乗った結果信用できないと思いました。今私はメルセデスのディーゼル(マイルドハイブリッド)に乗っていますが、高速ならリッター27キロ走るというと、みな国産HVより良いと言います。しかもパワフルですから。
現在進行中のEV大量投入期は、記事中のHV黎明期と全く同じ、カタログスペック至上主義となっています。
それは中国だけではなく、欧州や米豪でも同じ。自動車メディアが率先してスペック命をやっています。
HV競争を経験した日本の数社は、EVでも動的質感やバッテリー維持や回収など、本質的な部分を重視していますが、スペック主義の市場やメディアで追いやられてますね