電車の線路の向こう側へ渡るときに不可欠な設備の一つが踏切だ。そんな踏切を普通の路線バスが通っていくことがある。なかなか物珍しさを感じるが、全国的に見るとレアケースなのだろうか。
文・写真:中山修一
■ただいま絶賛減少中!! な電車の踏切
大動脈級の国道から獣道のような場所に至るまで、様々な形態が見られた踏切も、最近はその数を減らしつつある。
特に交通量の多い大都会では、電車の本数も自ずと増えて、遮断機が下りている時間が長くなり、交通渋滞の要因になってしまっていた。
そんな交通渋滞を解消するため、高架に付け替えたり地下に移したりと、道路と直接交差しないよう、電車の線路のほうを改造して踏切をなくす工事が各所で実施されている。
都会から踏切が消えていくのと同時に、「今は踏切の新設が禁止されている」という噂を耳にするようになった。
鉄道に関する法律の条文「鉄道は、道路と平面交差してはならない。」を根拠にしているのだろう。ただし、この条文には続きがあり、フルに書くと……
「鉄道は、道路(一般公衆の用に供する道をいう。以下同じ。)と平面交差してはならない。ただし、新幹線又は新幹線に準ずる速度で運転する鉄道以外の鉄道であって、鉄道及びこれと交差する道路の交通量が少ない場合又は地形上等の理由によりやむを得ない場合は、この限りでない。」
……となっている。条文の冒頭部分だけ切り取られてコピペを重ねた結果、踏切の新設は禁止というイメージができたと思われる。
まず条件が相当限られるのと、法律面を除いた関係各位の擦り合わせ(オトナの事情)が非常に込み入ったものになると予想されるため、新しい踏切を作るのが超難しいこと自体は変わらないだろうが、さすがに禁止まではされていない。
■本当にレア? それとも……
ある公共交通機関が他の公共交通機関の占有領域に足を踏み入れる様子を目にすると、背徳的スリルとも支配欲の充足とも取れる、ただならぬワクワク感を覚えてしまう。路線バスが踏切を堂々とまたいで進む瞬間もまた刺激的だ。
とりわけ都会では電車の高架化・地下化が進んだせいか、路線バスと踏切の組み合わせが見慣れないものに映り、かなりレアな印象を抱く。では「数」からアプローチした場合、実際のところ本当にレアと言えるだろうか。
国土交通省の調べによれば、2021年現在で全国にある踏切の数は何と約33,000箇所にものぼる。東京23区内に絞ると620箇所だ。なくなりつつあると言えど、依然あちこちで働いている。
それだけあるなら、踏切を渡る路線バスがいくつ存在していても不自然さはない。合わせて25,000程度のバス路線があると言われているのを考えれば尚更だ。
過去に乗りバスで利用したものを例にすると、以下の系統が経路に踏切横断を含んでいた。
・函館バス 610系統(北海道) ・関東鉄道 海岸線(茨城県)
・JRバス関東 洲の崎線(千葉県) ・都営バス 梅76系統(東京都)
・信南交通 駒場線(長野県) ・ことでんバス 由佐線(香川県)
・伊予鉄バス 8番線(愛媛県) ・宇部市交通局 3系統急行(山口県)
・サンデン交通 仙崎線(山口県)
途中で踏切を通るなど全く知らずに乗ったバスだけで9路線、たまたまにしては潤沢な数が揃った。踏切を渡るバスは数的にレアかと思いきや、全国に満遍なくある可能性が高い。