■生産工程と工場投資が半分になる
次世代EV専用P/Fを開発する「BEVファクトリー」のプレジデントに就任した加藤武郎氏が、緊張した面持ちで初のプレゼンテーションに立ちました。
次世代EV専用P/Fは、e-TNGAと同様の考えで3分割の新モジュール構造を採用し、最大の狙いはセンターモジュールで電池の進化を柔軟に受け止める考えが示されました。
廉価なリン酸鉄を正極材に用いるLFP系電池と全固体電池を含め、トヨタは5つの新開発電池を2026年から2028年に開発する意気込みを示しています。
車体構造には「ギガプレス(大規模なアルミダイキャスト)」を採用し、部品統合を実現させます。
ギガプレスは、現在多くのEVメーカーが採用に向かう自動車製造の新しいプロセスで、トヨタもそれに遅れることなく追随します。
テスラは171個のボディ部品をギガプレスで一体成型して、わずか2つのボディ構造部品へ統合しています。トヨタの次世代EV専用P/Fでも同様にフロントとリアの2つのボディ構造へ統合度を高めます。
さらに、次世代EVの組み立て工程においては車両を吊り下げるハンガーや搬送のパレットを用いず、車両自らが工程を自走する新生産方式を採用します。
これによって、EV専用工場設置の段取りは大幅な自由度の高まりと時間の短縮が可能となり、工程数と工場投資を半減させることができるようになります。
ビークルOSの「アリーン」を用いて、クルマ屋らしいファンtoドライブなクルマへ磨き上げる多くの新しいOTA価値も提案されました。
自前主義にこだわった次世代音声認識システムを採用し、即応答性に加えて、クルマ屋らしい200種以上の車両制御の操作性に優位性を見出そうとするところが特徴的でした。
2026年の次世代EV専用P/Fと同時にアリーンOSを完成させ、OTAを用いた提供価値を拡大させる考えです。
乗り味やエンジン音をオンデマンドで変更し、最高級のレクサスLFAからパッソまでのドライブ体験を1台のEVで提供したり、ソフトとハードのアップデートを施し、MT車の走行体験を得られるEVも開発を進めています。
■EVシフトに残された時間は変わらない
2026年に150万台、2030年に350万台というEV販売台数の目線は決して「はったり」ではなく、高みに到達できる包括的な技術開発の基盤があるという、トヨタのEVへのやる気と自信が示されました。
いかにトヨタが本気でEVを拡大させ、経営の持続可能性とマルチパスウェイ(全方位)戦略の基盤を強化しようと考えているかを理解するよいイベントとなりました。
ただし、「これでトヨタも安泰」と楽観することはできません。
第1に、電池技術の多くは自前主義で開発・生産が行われるため、自前で5つの電池開発を進めながら、大規模な量産を進めていくことは至難の業となります。
第2に、EV戦略を遂行するにはトヨタ社内の意識改革、グループ企業の構造改革への邁進など内なる改革が不可欠となります。変革に立ち向かうグループ企業の覚悟が伴わなければ変革へのスピードを失う懸念があります。
第3に、高価格帯EVへのソリューションは揃っていますが、カローラやRAV4クラスの普及版EVでトヨタがどのような提供価値を示し、そこにコスト競争力を見出そうとしているのか、それはまだ煮詰まっていない印象が残ります。
最後に、EVシフトに向けて残された時間には変化はないのです。
抜本的なEV強化が2026年から始まることを考慮すれば、2026年から2028年に向けて著しく強化される米国のGHG(温室効果ガス)規制、カリフォルニア州が主導するZEV(ゼロエミッションビークル)規制の対応に、トヨタは相当難しいかじ取りが必要となりそうです。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
コメント
コメントの使い方トヨタが自前主義になぜ拘るのか?昨今テスラに完全に追い抜かれたとマスコミは面白がって報道するが、テスラ-は駆動系は日本電産、バッテリはパナソニック、今は韓国および中国から取り寄せ搭載。その車両価格が最低でも700万円台。トヨタがその価格帯で発売したら皆さんきっと猛批判されるでしょうね。トヨタは、デンソ-、Jテクト等自社から分離させGrを立ち上げてきましたよ。ここが他社と違う強みです
BEV技術は一朝一夜で、はいどうぞ!ではないと思う。ホンダ、日産にしても、バッテリ開発は相当時間をかけてきたと思う。トヨタは2028年委個体電池車を投入するというコメントは自信があるからこそ発表したんじゃないのかな。一介のジャ-ナリストが遅いとか批評するより、技術革新がどれほど難しいかを考えてほしい。