新型BMW3シリーズとクラウンを現役開発者が斬る 目新しさがない?? 3.5Lよりも2.5Lがいい?? 

■3シリーズに”駆け抜ける喜び”はまだあるのか?

 まずはいつものように歩くほどの速度でゆっくりと走りだすと……、とても滑らかで静かです。ボディが非常にしっかりしています。

 今までの3シリーズも悪くはありませんでしたが、今度の新型はとてもいい。これは凄いです。ミシリともしていません。特にBピラーから後方のボディ剛性がカッチリしている。

高い剛性を誇る新3シリーズ。やみくもにスパッと切れるハンドリングではなく、ある種の「タメ」がしっかりとあるようだ

 小さな凹凸が連続する路面を走っても、車体後方がバタバタするようなことはいっさいありません。

 操舵に対しては、リアがドシリと踏ん張ってくれるので、フロントが好きなように動かせる。

 旧型3シリーズだとリアはちょっと腰高で少し突っ張ったようなストローク感でしたが、新型はガッチリとした剛性のあるボディを軸に、低いところで滑らかにストロークしていながらも安定している。

 リアがこれだけしっかりしているから、フロントの軽快な動かし方ができるのです。ドライブモードを「スポーツ」に切り替えると、全体的に足が硬くなり、動きに落ち着きが出て軽快感は逆に薄れる印象。前後のバランスが完全に取れているためです。

 「ノーマル」モードではフロントが少し勝手に動くために軽快感を感じます。急制動をかけた時の前後のバランスもいい。

 安心してブレーキペダルを踏み込める。リアの接地がいいから、後輪ブレーキを効果的に使えるのです。フロントに頼っていないため、ノーズダイブも少ないし、ABSの介入もギリギリまでありません。

 エンジンの音は4気筒とは思えないほどクリアーで心地いい。エンジンルームから無駄な音が入り込んでこないのです。これは例の二重隔壁の車体構造が効いています。

 操舵感もいいです。安全&安定性でセットしているベンツではこの操舵感は味わえません。ここまで自在にクルマが動いてくれるとドライビングが楽しいです。しかも安定しているため、限界時のスタビリティも高い。劇的に進化しています。

空力への取り組み、そして操縦安定性能は水野さんも高評価。しかしパッと見の新しさがないことで90点となった

 例えばステアリングを切った時のクルマの反応ですが、切って即パッと反応することがいいように思われている人が多いと思いますが、違います。

 一瞬の「タメ」があってそこからリニアに反応する。アウトバーンをオーバー200㎞/hで巡航するには、この「タメ」がなければヒョコヒョコしてしまって恐ろしくて走れたものではありません。

 この3シリーズには絶妙な「タメ」があるのです。

 なるほどな、と納得しました。乗る前と後ではガラリと評価が変わりました。乗って”よさ”を実感できるのは、まさにBMWらしいと言えばらしいです。

■静かで滑らかな走りだしはクラウンでしか味わえない感覚

 ではクラウンです。走り出すととにかく静かで滑らか。この感覚はクラウンでしか味わえないものです。

 昨年夏に、クラウンが登場してすぐの頃にベストカーで取り上げましたが、その時は2.5ハイブリッドをBMW5シリーズと比較しながら評価しました。

スッと静寂とともに動き出す感覚はクラウン独自のもの。これぞ日本の4ドアサルーンと高評価も、「感性で感動するクルマ」にはまだ達しないという

 やはりクラウンの対抗は5ではなく3シリーズだと思います。価格的にも3シリーズとクラウンは同価格帯となります。

 緩い上り坂でアクセルを踏み込みエンジン回転を上げると、エンジンルームからの吸気騒音が急激に大きくなります。

 BMWやベンツのような二重隔壁がないために、フロントガラス下、エアコン空気取り入れ口から入った吸気騒音が配風ダクトを伝い、室内のエアコン吹き出し口から耳に向かって直接的に入って来ます。

 せっかくクルマの動きは滑らかで一定速走行の時は静かなのだからこれを生かすためにも、吸気騒音の低減と室内への入り方等に改善を望みたいところです。

 操舵に対するクルマの動きは先ほどの3シリーズで感じたような「タメ」がなく、スッと切るとパッと反応するという印象。

 確かに従来の年配に向けたクラウンから、若い世代に軽快に楽しく運転してもらいたいという開発の狙いはわかるし、そのためにあえてこうしたことは理解できます。

 しかしBMWのような躍動感のなかにある、走りの質感の高さは感じられません。

 クルマだけでなく、オーケストラでも落語、漫才や舞台、そして一流の家具などにおいても「タメ(間)」の作り方&使い方で重厚感や躍動から来る「感動」を作りだすのが名人の仕事で、ここが素人との違いではないでしょうか。

 余談ですが、私はグループCメーカー選手権耐久レースで確実に速く効率的に走れるため、そしてGT-Rの開発時、サーキット走行の速さや、300km/hでも安心感が持てるアウトバーン走行を実現するために、走りのなかでのタメの作り込みに特に技術と時間をかけてきました。

 そのために「車両の総合計測システム」をレース時代から独自に作り、エンジンに入る空気や燃料からタイヤの接地面までの250種類以上のすべてのデータを一括して使い、一つひとつの部品の動きをトータルコーディネートしてきました。

 ですから私の頭のなかにはすべてのデータが、その動きが画像処理されるレベルまで入っています。決してレスポンスは早ければよいのでなく、人の能力とクルマの反応を繋げる時間のタメ(間)が重要なのです。

 その「タメを造り出す」、それは開発者の力量に頼るものだと思います。シミュレーションなどの単なる道具に頼ったのではできないものなのです。

 元来、人間の「感知、判断や思考、運動変換」する体は、自分が走れる速さや作れるG……、つまり40km/h&0.8G程度の処理能力しかないのに、100km/h以上、1.0G以上出す運動能力のクルマを運転(コントロール)しているのです。

 このギャップを埋めて快感や安心感を作りだすのが「タメ」なのです。どのような分野でも、素人ではなく一流のプロの人は、自分が一方的に演奏したり話したり、演じるのではなく、お客様が感じ、想像し、反応する一瞬一瞬の時間を提供しながら演じるのです。

 一流の家具も同様にそれを使い、見ているお客様が感性を造る瞬間の時間を提供しているのです。

 ある意味、一流オーケストラの指揮者のように、こちら側の個々の楽器の演奏(音)とお客様との間で、受け取り、感じ、そして創造する時間を作っているとも言えると思います。

 そういった意味でクラウンは、理屈どおりにできているし、とりわけ欠点もありません。

 つまり「理性でいいクルマ」ではありますが、「もっともっと走っていたい」と思わせる「感性の感動」の部分がBMWとの違いだと感じるのです。

クラウンは87点。しっかり作りこまれて行って大きな欠点もないが、エモーショナルな感動も特にはないというのがその理由。また今回の3.5Lハイブリッドよりも、2.5Lハイブリッドのほうが評価は高いという

 乗ってみてクラウンの走りに欠点はありません。日本の道路を走って乗り心地はいいし取り回しに不便を感じることもない。

 正常進化しています。ただ、インテリアはダッシュパネルの質感にちょっとプラスチック感があるし、少々コストダウンの雰囲気も感じてしまいます。

 3.5Lマルチステージハイブリッドは確かにパワフルなのですが、アクセルをグイと踏み込んだ瞬間に、一瞬のレスポンス遅れを感じます。

 2.5Lハイブリッドのほうがアクセルに対するレスポンスはシャープでリニアで素晴らしい出来でした。

 4速ATを組み込んだことで、物理的にギアの段切り替えの時間が加わり、制御にも一瞬の遅れが生じるためでしょう。この遅れは、燃費のためのギアホールドなのでしょうか?

【試乗車両主要諸元】

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