BEV化が照らす明るい未来と険しい道【日本のクルマ界は生き残れるか? 第4回】

■BEVシフトのメーカーの大義

 多くの自動車メーカーがBEV化レースにエントリーするが、その大義は脱炭素(CO2=二酸化炭素)であることは間違いない。グローバルな環境政策の一丁目一番地は「CO2削減」なのだ。気候変動に関する政府間パネルIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)では、気候変動は「待ったナシ」の危機的状況が迫ると警告している。

 2050年に1.5度以内の上昇幅に収めないと、異常気象が生じて文明は危機的な状況を迎える。このシナリオは科学的な根拠でも示されており、反論の余地はない。

 だが、気候変動の原因となる温室ガスはCO2だけでなく、人為起源ではメタンや一酸化二窒素やハロゲン化ガスも大きく影響することは知っておくべきファクトだろう。

 IPCCレポートを受けて、日本政府は2030年度までにCO2排出量を2013年度比で約46%削減し、2050年までに「実質ゼロ」とする目標を掲げている。(参考/IPCC第6次評価報告書・気象庁WEBサイト)

 しかし、BEV化をどんなに急いでも、それが自動車の主役になるには時間がかかる。私が考えるカーボン・ニュートラリティの普及シナリオを図のように示しておく。簡単に説明すると、すくなくとも当面の主役はハイブリッド。とくにバッテリーを多めに使えてEVでの航続距離が長め(50km前後)のプラグイン・ハイブリッド(PHEV)は、CO2削減の最有力候補だ。

当面のあいだ、HEV/PHEVが新車販売の主流であることは間違いない。その後、ジャンルごとに駆動ユニットが異なる時代が来る
当面のあいだ、HEV/PHEVが新車販売の主流であることは間違いない。その後、ジャンルごとに駆動ユニットが異なる時代が来る

 続いてオーナーカーではコンパクトカー(軽カーも含む)からBEVが普及し、大きいSUV(トラック・バスなども含む)などは水素を使う燃料電池車(FCEV)。もっとも後ろから追い上げるレーサー(競争競技)は、水素を利用する合成燃料で走るICE(燃費向上のためハイブリッドが基盤となる)ではないだろうか。

 燃料電池車(FCEV)は、乗用車で水素を使うよりも消費量が多い大型車のほうが都合がよい。水素という新しいエネルギーを普及させるには水素を大量消費する「使い道」を用意する必要があり、大量消費を見込むことで大量生産が可能となり、コストが下がる。この需給バランスが重要で、その意味では再生可能なエネルギーも同じことがいえる。

 このように、電気にしても水素にしても、お互いに2次エネルギーなので、「どう作るか、どう貯めるか、どう運ぶか」というエネルギー側のバリューチェーンと、「どう使うのか」というアプリケーション側との連携が重要となる。つまり、BEVやFCEVはエネルギーとの両輪を考慮した普及シナリオが必要だろう。

■BEVにシフトする中韓の勢い

 トヨタと日産とホンダは、バッテリーを競争領域と考え、2030年くらいまでに「全固体電池」の実用化を独自開発することを目指している。

 もともとLIB(リチウムイオン・バッテリー)は日本家電メーカーが実用化した技術だが、自動車業界は安全面で使いやすいニッケル水素バッテリーを使い、ハイブリッドカーを製品化した。少なくともトヨタとホンダはハイブリッド技術で成功し、「環境」の基盤技術となった。

 それゆえに、LIBをクルマの動力源をして使う発想がなかった。

 航続距離を考えるとBEVの基盤技術はエネルギー密度が高いLIBだが、日本メーカーの専門家は「中国や韓国のバッテリーがここまで進化するとは予想できなかった」と反省している。

 トヨタは数年前からBYDと共同でBEVを開発しているし、バッテリーメーカーで有名なCATLとの共同研究も行っている。だが、BEVで攻める続ける中国メーカーは、BEVで世界制覇する勢いだ。なかでもBYDはバッテリーサプライヤーでありながら、自動車も自力で開発製造販売できる、大谷翔平のような二刀流。

 それにしても、LIBの世界シェアの半分を持つ中国の動きが速い。2022年1月から11月までのバッテリー生産量は中国のCATLとBYDで50%を越えている。

 最大のシェアを誇るのは、中国のCATLで、2022年のLIB生産量は191.6GWh(韓国SNE Research)で、次に中国BYDと韓国LGが続く。こうしてLIBの世界量の75%を中国と韓国が占めている。

次ページは : ■日本のOEMの動向

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