BEV化が照らす明るい未来と険しい道【日本のクルマ界は生き残れるか? 第4回】

■日本のOEMの動向

 心機一転、トヨタはBEVカンパニーを立ち上げ、本気で取り組む決意を新たにした。2023年6月に開催されたトヨタのテクニカル・ワークショップでは、いままでは見えにくかったトヨタのバッテリーとBEV戦略が明らかになった。簡単にレビューすると、4つのステップでバッテリーを進化させる。

 一番目のステップは2026年の次世代BEVに搭載されるパフォーマンス版。電池のエネルギー密度を高め、クルマ全体の効率化で航続距離は従来比2倍となる1000kmが可能となる。しかもコストは マイナス20%、急速充電も20分以内を目標にする。

 二番目のステップは進化する2026~27年実用化予定の普及版。バイポーラ型LIBだ。バイポーラ化で、容積密度が増し航続距離は従来のプラス20%。部品点数は4 分の 1以下に抑えられるので、コスはマイナス40%を見込む。

 三番目のステップは2027~28年に実用化予定のハイ・パフォーマンス版。正極にハイニッケル系素材を採用しバイポーラ構造と組み合わせることで、 パフォーマンス版との比較で航続距離は+20%、急速充電は20分以下が可能となり、コストは マイナス10%が見込める。このバッテリーもバイポーラを使う。

 四番目のステップは次世代バッテリーの本命と目されている全固体電池。従来の石油由来の溶剤ではなく、個体の中をリチウムイオンが行き来する。安全性・エネルギー密度が向上する。この技術で中国と韓国と追い越すのが狙いだ。

トヨタが2027~2028年に市販化する目途が立った、と公言している全固体電池。蓄電容量もサイズも、これまでのバッテリーとは大きく異なるゲームチェンジャーとなる……はず…!!
トヨタが2027~2028年に市販化する目途が立った、と公言している全固体電池。蓄電容量もサイズも、これまでのバッテリーとは大きく異なるゲームチェンジャーとなる……はず…!!

 BEV競争はバッテリーだけではなく、品質や安全性も競争できる。とくに安全性に慎重なトヨタはユーザーから絶大な信頼を受けているので、いままでのトヨタの強み(慎重)を生かしながらも、大胆にBEVの開発に取り組む計画であるが、はたして、どれだけでユーザーの気持ちをつかむことができるだろうか。

■ユーザーにとっての使いやすさと嬉しさはどこにある?

 さて、ここまでは「バッテリーの話」にすぎない。バッテリーとモーターでどんな価値を持ったクルマを作るのか、まだ全貌は見えてこない。ギガキャストの新製造法が話題となっているが、コストを下げるだけでは競争に勝てない。BEV化で明るい未来を築くには、もっと大胆な発想が重要なのだ。

 日本のOEMのプラットフォームを見る限り、疑問に思うことがある。

 BEVは低重心・低ヨー慣性モーメントで破壊的な運動性能が可能となるが、なぜRR(リヤモーター・リヤドライブ)を基本としないのか、理解に苦しむ。VWのID.3/4のようなRR方式が新しい進化ではないかと思うのだ。

 先進的なバッテリーだけでは明るい未来は築けない。駆動方式からエンジンがなくなり、ブレーキもモーターで動くドライブレーキ、あるいはバイワイヤー・ステアリングも実用化できる時代に、従来の常識を忘れた新しい発想が必要である。BEV宣言で未来を創造するには、まず藤井聡太棋士のように、常識に囚われないことが大切ではないだろか。

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