日産の名車「シルビア」が復活するために必要なこと

日産の名車「シルビア」が復活するために必要なこと

 2002年に排ガス規制をクリアできずに販売終了したS15型を最後に、この世から姿を消したシルビア。

 トヨタが「86」を2012年にデビューさせたことで、モーターショーのたびに「次こそはシルビア後継(の次期型小型FR)が出るか?」と、スポーティーカーのファンは活気づき、自動車専門メディアの紙面やWEB媒体には予想CGが登場するなど、話題になってきた。

 しかしそうした報道とは裏腹に、いっこうにデビューの気配は感じられない。シルビアが復活するために必要なこと、そしてそのハードルとは何かについて、元日産開発エンジニアの立場から考察したいと思う。
文:吉川賢一


■シルビア復活に必要なこととは?

 シルビアが復活できない致命的な理由がひとつある。

 それは、「小型FR車がビジネスとして成り立つ見通しが立たない」ことだ。

2002年8月に新車市場から姿を消したS15シルビア。このモデルの販売期間は3年7カ月ほどだったが、大きなインパクトを残し、現在もファンは多い

 フェアレディZやフーガ、エルグランドなど、日産のモデルチェンジのサイクルが極端に伸びていることも同様の理由であると考えられる。儲からないのにあえてクルマを作るほどの余力があるメーカーは、少なくとも今の日本にはない。

 しかしそれを踏まえても、復活させる方法がひとつある。それは、会社のトップが「作りたい」と一声を発しさえすれば、プロジェクトはすぐにでも動き出すだろう。

 R34型でいったんは姿を消した「GT-R」も、「35型として復活させる」と決めたのは当時のCEOカルロス・ゴーン氏の経営判断による熱望であったし、「86」や「スープラ」の復活劇も、豊田章男社長が牽引したことにより成し得たことだ。

 日産のトップが「私はシルビアが大好きだ。また乗りたいと個人的に考えている」と言うだけで、日産社員や関連会社、チューニングメーカー、モータースポーツファンなど、どれだけの方が喜ぶか。たとえそれが実現できず、「やるやる」詐欺になってしまっても(それはそれで困るが)、モーターショーで読み上げるカッコよい文言ではなく、こうした「生きた言葉」をファンは待っているのだ。

歴代シルビアのなかでも特に多くのクルマ好きを虜にしたのが、1988~1993年に生産したS13シルビア。独特のグレード構成(K’s、Q’s、J’s)もあって若者を中心に人気を集め「デートカー」と呼ばれた

■乗り越えないとならない大きな具体的ハードルとは?

「作れ」の号令の下で、乗り越えないとならないことのひとつに「安全基準」がある。

 シルビアらしさを象徴するのは、「コンパクトで背が低くてカッコよいスポーティーカー」であろう。これには、衝突安全性能を満たすボディ構造が大きく影響する。

 ある年代から、エンジンフード高の低いクルマが極端に減った。これは、前面衝突時の歩行者頭部保護の安全基準をクリアするため、極端に低くできなくなったのだ。

 もちろん、コストをかけてポップアップエンジンフードなどのデバイスを使うことでクリアすることもできる。しかし、こうした基準に対応すべき範囲が、側面衝突、後部衝突、オフセット衝突、小ラップ衝突など、全方位に及ぶため、ボディには相当な規模の補強と、クラッシャブルゾーンが存在しないと、各国の保安基準を通過できない。

 基準を満たそうとすれば、エンジンフード高も上がり、ドアもぶ厚くなり、ボディは肥大化するか、狭い車内スペースになってしまう。

 これでは、体の大きな外国人は、そもそもクルマに乗りこめない、といったことにもなりかねない。

2013年の東京モーターショーで日産が出品したコンセプトカー「IDxコンセプト」。ジャストサイズの小型クーペであったが、その後開発が進んでいるという話はまったくない

 そして第2のハードルが「コスト」である。流用できる部品を探して開発費を下げることは当然だが、新型のVCターボエンジンやe-POWERなど、魅力を高めるアイテムには追加投資もしなければならない。

 さらにはどの工場で作るのか、部品ロジスティクスは国内とするか、中国など海外輸入も含むか、などもクリアせねばならないハードルだ。「S15みたいなクルマを250万円程度でカッコよく作れればよい」と言っても簡単にはいかないのだ。

 そして、なぜいまだにS15が中古車界隈で大人気なのかも理解せねばならない。

「自分でカスタマイズしたくなる弱点がある」。歴代のシルビアには、こうしたユーザーの声もあるそうだ。制約条件の中で、日産にはベストを尽くしてほしいが、100点満点を追い求めすぎると、高級なシルビア像しか出てこない。標準タイヤだって16インチでもいいのだ。そこにカスタマイズする意欲が湧くであろう。ファンは遊び心が欲しいのだ。

次ページは : ■まとめ

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