■ユーザーも大変だが巻き込まれる販売店はもっと大変
前述したように、生産するメーカーも大変な努力をして生み出している限定車。この苦労はユーザー間でも同様。激しい獲得競争繰り広げられ、購入にたどり着くだけでも一苦労だ。
さらに、この獲得競争と希少生産に巻き込まれる販売現場も、厳しい状況に置かれる。
筆者も営業マン時代に台数限定車をいくつか販売したことがあるが、限定車への対応は気が気ではない。
鳴り続ける電話に予約希望者が多数押し寄せるショールーム。数日は、顧客の交通整理だけで仕事が進まなくなる。
さらに、購入希望者多数の場合は、店舗同士で少ないクルマを奪い合う。営業スタッフにもお店にも、懇意のお客様に「買いたい」と言われてしまっては、引くに引けない事情があるのだ(現在はメーカー抽選が増えてきたが、販売会社で痛み分けしながら抽選を行うところもまだまだ多い)。
昨今では限定車をめぐり、ユーザーと販売店、販売店とメーカーでトラブルが起きることも増えてきた。
かつては熱心なファンが追いかけた限定車なのだが、最近では転売目的ということも視野に入れなければならず、売り方もより慎重にならざるを得ない。
限定車を取り扱うメリットが薄れ、デメリットが目立つ状況に、トラブルに巻き込まれるのは御免だと、限定車の販売から一歩引く販売店も出てきている。
かつては、「ユーザーが期待」や「「作ってみたい」を形にしました」という思いが詰まった台数限定車だった。
しかし、最近は本来の製造目的を見失っている感もある。限られた数を販売する意味は何なのか。限定販売を基礎から考え直す時期が来ていると筆者は思う。
限定車が輝いていた頃は、売れなくても作ることに意義があると言い切って製造し、その熱意にファンがついていったものだ。
今は、売れるのを知っていながら限られた数しか作らないから、しこりばかりが残る。誰も幸せにならない限定車を作るのは、そろそろやめてほしい。
国内メーカーに限って言えば、台数限定ではなく特別仕様で、今の台数限定車のような魅力あるクルマを作り出してもらいたい。それが、ユーザーも販売側も待ち望む、限定車の姿だと思うのだ。
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