2023年11月に行われた業者向けの中古車オークションにおいて、ホンダの初代「NSXタイプR」が5600万円超で落札され、SNSなどで話題となった。このNSXタイプRに限らず、近年は20年以上前の国産中古スポーツカーの相場が高騰しているが、なぜ高く取引されているのか? また落札されたクルマたちはどこへいくのか!? そして5600万円もの価格で落札された初代NSXタイプRとは、どんなクルマだったのか!??
文:吉川賢一
写真:HONDA、NISSAN
究極の走りを求め、3年間限定で販売された「タイプR」
初代のNSX(NA1型)が誕生したのは1990年9月のこと。それから2年後の1992年に、究極の走りを追求した「タイプR」が追加された。エンジン排気量は標準車と同じく3.0LのV型6気筒 VTECエンジン(C30A型)だが、タイプRでは、クランクシャフトやピストン、チタン製コンロッドなどの重量とバランス精度が向上され、8000回転のレッドゾーンまで一気に駆け上がるレスポンスを実現。またサーキットやワインディングでのハイスピード走行を想定し、サスペンションもダンパーとスプリングが強化された。
オートエアコンやオーディオ、エアバッグといったゼイタク装備は外され、ドアビームやバンパーは、軽量なアルミ製に置き換えられるなどによって、車両重量は標準車比でなんとマイナス120kgを達成。インテリアに収まるレカロ製の赤いフルバケットシートや、カーボン調のメーターパネルも印象的だった。
この初代NSXタイプRは、3年間の期間限定販売であり、1995年の秋には販売終了している。ただその後も、ファンからの強い要望によって、2002年5月にNA2型(3.2リッターV6エンジン)のタイプR、「NSX-R」が登場するなど、とにかくファンに愛されたモデルだった。
米国でのJDM人気と25年ルールクリアによる需要の高さが原因
今回、5600万円という価格で落札された初代NSXタイプRは、1994年式(平成6年)のNA1型(3.0L V6エンジン)、5速のマニュアル車だ。修復歴はなし、走行距離13,000km、ボディカラーはチャンピオンシップホワイトだった。
走行距離が少ない極上車だったため、競り価格が上がりやすかったという事情はあるが、それにしても異常な金額。ここまで落札価格が上がってしまったのには、日産のスカイライン(GT-R)などと同様に、米国でのJDM(ジャパンドメスティックマーケットの略。直訳すると日本国内マーケット。米国内で日本仕様のクルマを乗ることをさすが、カスタムも含めてJDMとされている)人気が続いていることにある。
初代NSXタイプRは、1992年から1995年の製造であるため、米国の25年ルール(「アメリカ合衆国の安全基準を満たさないクルマは輸入できない」という米国の輸入規制の例外として、「製造から25年以上経過したクルマであれば、右ハンドルでもそのまま走っていい」とされていること)もクリアしている。米国で人気のあるクルマを、規制なく輸入することができることによる需要の高さから、価格が跳ね上がってしまったのだろう。
本稿を執筆している2023年12月初旬現在、中古車サイトで、「初代NSXタイプR」を検索しても1台もヒットしない(標準車にタイプR用のパーツを付けた個体はあった)。価格応談とされる個体もないため、いま現在は、国内の中古車屋が一般人に販売するようなルートに初代NSXタイプRは流れておらず、おそらく今回の個体も米国へと輸出されていったものと思われる。
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