なぜ中国、インドのメーカーに買収されると元気になるのか? ボルボ&ジャガー&ランドローバー研究

■クルマからボルボの元気さがわかる!(TEXT/石川真禧照)

 ボクがボルボ復活を確信したのは、S60/V60シリーズが日本デビューし、そのプレス試乗会の会場でのことだった。スウェーデンからデザイナーやプロジェクトリーダーがやって来た。その会場でボクが聞いたのは、ボルボと吉利の関係だった。

「吉利が親会社になってデザインなどに口を出してくるの?」という問いに対し、チーフデザイナーは「そんなことはないよ。確かに吉利の人間は会長をはじめ、デザインスタジオにもやって来る。でも特に吉利の会長は、とても芸術などに見識があるんだ。絵画や音楽が好きで、よくそういう話をするよ。だからこの60シリーズもデザインに関しては何も言わないし、口もはさまない。結構自由にやらせてもらったよ」と言い切っていた。

 この時に、これからのボルボは注目だ、と思った。

 というのも、合併や買収した会社の雰囲気で、その後の流れというのはある程度、予想できるものなのだ。

 その経験から「これからのボルボはいける!」と思ったわけだ。クルマはやはりカッコよさが大切だから。つまり、デザインだ。制約の少ないデザインというのは、ユーザーにも伝わる。

 技術的にも、これまでボルボの特徴であった安全性の研究成果が実用化された。シティセーフティと呼ばれる、時速30km以下の低速走行時に追突の危険を察知すると自動で回避、軽減するブレーキシステムをS60/V60/XC60/V70/XC70/S80に標準装備したこと。

 また車載レーダーによる障害物検知とカメラからの映像で歩行者を検知し、衝突の危険性がある場合には自動ブレーキで事故を回避・軽減するヒューマンセーフティも一部の上級グレードおよびオプション装備として用意されており、装着可能モデルは95%の顧客がオプション装備を選択しているというから驚く。

 S60が379万円からV60が399万からという低価格戦略もヒットした理由だろう。

 2013年2月には新型V40シリーズが日本で販売開始。スタイリングは60シリーズからの流れを汲むスタイリッシュなプレミアムコンパクトだ。価格は300万円前後からのスタートと、意欲的な価格となりそうだ。

 スカンジナビアデザインのオシャレで質感の高いインテリア、見る者をハッと思わせる斬新かつスタイリッシュなエクステリア、低燃費の1.6Lダウンサイジングターボ+6速デュアルクラッチ、そして衝突軽減ブレーキ標準装備など最先端の装備を持ち、デザインでも他車とは違う個性に満ち溢れているのがボルボだ。

 今後もこの元気さは続くと思う。

ボルボの衝突軽減ブレーキ、シティセーフティ。30km/h以下の低速域でレーザーセンサーを用いて追突回避・軽減する
ボルボの衝突軽減ブレーキ、シティセーフティ。30km/h以下の低速域でレーザーセンサーを用いて追突回避・軽減する

■イヴォークの世界的大ヒットが牽引! 復活したジャガー&ランドローバー

レンジローバーイヴォークの好調によって50年ぶりに3交代24時間体制となった英国工場
レンジローバーイヴォークの好調によって50年ぶりに3交代24時間体制となった英国工場

 2008年3月、インドのタタモーターズは、フォードからジャガー&ランドローバーを23億ドル(約2280億円)で買収した。

 タタモーターズは、インド国内で第2位のシェア(国産車としては首位)を誇る、インド最大の自動車メーカーで、親会社の「タタグループ」は、金融や不動産、鉄鋼、食品、通信など7業種90社以上を傘下に置くインド最大のコングロマリット(財閥グループ)である。

 この買収劇が発表された当初、10万ルピーカー(約25万円)のタタナノを発表した新興国メーカー(1945年設立)が高級ブランドを買収したのかと世界に衝撃を与えた。

 さて買収後、ジャガー&ランドローバーはどうなったのか? 買収後の2009年3月期通期決算でジャガー&ランドローバーは、税引き前損失180億ルピー(約356億円)の赤字となり、連結対象となったタタも250億ルピー(約486億円)の赤字に転落した。

 しかし2010年度にはタタ、ジャガー&ランドローバーともに販売台数を伸ばし、連結ベースの純利益は257億ルピー(約492億円)の黒字に転換。その後も2011年度の連結ベースの純利益は1351億7000万ルピー(約1930億円)で、前年度に対して46%の増益となった。

 最新の2012年7~9月期も連結の純利益は207億5000万ルピー(約306億円)で、前年同期に対して10.5%の増益だった。

 タタが大幅な増益となった要因は、傘下のジャガーとランドローバーの好調さにある。2008年度時点の世界新車販売台数は17万7422台だったが、2011年度には30万5859台と約1.8倍まで販売台数を伸ばしているのだ。

 最新2012年11月の販売台数をみると、XJ、XFの2013年モデルの販売を控えたジャガーは前年同期比5%減の4031台。

 いっぽう、ランドローバーは前年同月比17%増の2万5862台と、引き続き好調。

 これは主に対前年比32%増というレンジローバーイヴォークの人気が最大の要因。ちなみにこのイヴォークは世界で120ものアワードを受賞し世界的に大ヒット。2007年7月~2012年11月までで、12万1331台を販売し受注に生産が追いつかない状況だ。

 いったい、なぜここまでジャガー&ランドローバーが元気になったのか?

 まず第一に「タタはお金は出すが口を出さない」という方針にある。

 タタグループ総帥のラタン・タタ氏は、「我々はジャガーとランドローバーが持つブランドイメージを維持していく。無闇にいじくり回すつもりは毛頭ない。特別な世界的ブランドを手に入れた以上は責任を持って育て、成功に向けてその価値を高めていく義務がある」

 さらにタタ氏は、両ブランドの生産拠点や部品調達先を英国からコストの安い海外に移転させることはない」と語り、経営陣もそのまま残す計画を明らかにしている。

 この方針により、フォード時代にプラットフォームを共用したSタイプやXタイプなどの姉妹車が作られなくなり、ブランドの独自性が守られたことも顧客に支持されたのだろう。

 研究開発費および生産工場の設備投資額がタタ傘下に入ってから増加している点にも注目したい。

 2011年9月には、2年以内に英バーミンガム近郊のウォルバーハンプトンにエンジンを生産する新工場を建設すると発表。現在、フォードから供給を受けている2L 4気筒エンジンに替わる新型4気筒エンジンを開発・生産する予定だ。

 さらに2012年9月7日に発表されたアルミモノコックボディの新型レンジローバーを生産するために3億7000万ポンド(約464億円)の設備投資を行ない、今後5年間にわたり、毎年15億ポンド(約1801億円)を投資していく方針という。

 雇用についてもリストラするどころか人員を増やしている。

 タタ傘下に入ってから、英国工場での生産、雇用を確保する条件に英国政府から2700万ポンド(約36億円)の助成金を受けたが一変。

 販売が好調なのを受けて、2012年8月、イヴォークに対する需要に応えるため、ヘイルウッド工場を50年ぶりに3交代24時間生産体制としたのをはじめ、ジャガーのキャッスル工場において新たに1100人の雇用を創出。

 これは今後5年間にモデルチェンジや改良モデル、追加車種を含めて40の新型車を投入する計画における重要な生産拠点とするためだ。

 英国工場以外の投資も積極的だ。組み立て工場をインドに作り、ノックダウン生産を開始。中国においても、奇瑞汽車と合弁会社を作り、2014年に生産開始するなど、抜かりはない。

 いっぽう、タタ傘下に入ってから日本ではどう変わったのか? タタ傘下に入って以降、ランドローバーは2010年137.4%増、2011年122.3%増、2012年1~11月151.9%増と販売台数を伸ばした。

 車種ごとに販売台数を出していないが、イヴォーク人気は日本も同じ。イヴォーク購入顧客の9割が新規顧客かつ、その前保有ブランドは国産車にまで広くまたがり年代もさまざまと、ブランドにとっては意図したとおり、新たな風を吹き込む結果となった。

 インポーターは、フォード傘下時代にジャガージャパンとランドローバージャパンが2005年に統合され、ジャガー&ランドローバージャパンとなり、バックオフィスとしてPAGインポートがあったが、これはタタ傘下に入ってからのものではない。

 ジャガー&ランドローバーのディーラーはこれまで、コモン化と呼ばれる、ひとつの拠点で2つのブランドを販売する形態をとってきたが、2013年1月付けの新規ネットワークでは全拠点が両ブランドを扱うデュアルブランド展開となる。

 ジャガー単独拠点7、ランドローバー単独拠点6、両ブランドの取り扱い拠点(コモン)42の計55拠点からコモン33拠点となるという。

ジャガー&ランドローバーの世界新車販売台数
ジャガー&ランドローバーの世界新車販売台数
日本におけるジャガー&ランドローバー販売台数(数字はJAIA調べ)
日本におけるジャガー&ランドローバー販売台数(数字はJAIA調べ)

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