商船三井がポルシェを相手取り、損害賠償訴訟を起こしたことが判明。2022年に発生した大西洋上での運搬船火災が発端となっているが、合わせてフェリー各社が現在EVの無人運搬を休止しているという。その真相やいかに?
文/国沢光宏、写真/ベストカー編集部、AdobeStock(トビラ写真:Slava@AdobeStock)
■なぜフェリーでのEV運搬が休止になったのか?
いつの間にか日本中の中長距離フェリー会社が「電気自動車の無人運送お断り!」になっていることをご存じだろうか?
例えば、大手SHKグループの『東京九州フェリー』では「当面の間、無人車航送に関して輸送上の確認が必要になるため電気自動車の乗船受付を一時休止いたします」。オレンジフェリーも「無人車航送における電気自動車の引き受けを休止いたします」。
特定のパワーユニットを指定し、運ばないという措置、今まで聞いたことがない。フェリー会社に聞いても明確な理由を教えてくれない。電気自動車の保有台数はそれほど多くないため、今のところ実害は出ていないけれど、島嶼部などに電気自動車を運ぼうとしても難しくなってしまう。
継続取材していたのだけれど、何となくその理由がわかりました。原因はポルシェか?
■ポルトガル沖でのVW運搬船火災事故が発端?
覚えている人もいると思うが、2022年2月にポルトガル沖でVWグループの車両3965台を搭載していた商船三井の自動車運搬船『フェリシティエース』が火災を起こした。
VWやアウディ、ポルシェ1100台やベントレー190台、ランボルギーニなども含まれるという。火災の原因だけれど、ポルトガル海事局や関係筋はリチウム電池が原因だと推測した。
どうやらビンゴだったのだろう。というか消火作業に当たっていた乗組員からも火元の情報が上がっていたようだ。電気自動車の電池から出火すると消火できず、フェリシティエースは全焼してしまう。
こうなると保険の出番です。沈没などすると巨額の保険金支払いになる大型船舶は、基本的に世界最古の歴史を持つロイズ保険組合などのシンジケート(グループ)で引き受ける。
当然ながら火災の原因をしっかり調べます。リスクが大きければ、保険料も高くしなければならないからだ。仮に電気自動車からの自然発火だと、次から電気自動車を運ぶ場合、保険料は大幅な値上げになる。負担は荷主だ。
■フェリシティエースの火災原因はポルシェタイカン?
どうやらフェリシティエースの火災の火元は、タイカンだったらしい。これ、長い間わかりませんでした。けれど商船三井がポルシェを訴えたのである。
おそらくポルシェはタイカンの電池が燃えたことを認めなかったんだろう。認めたら保険料が高くなるし、最悪の場合、運送を断られてしまう。陸路でアメリカに運ぶワケにもいかない。
この事実をポルシェ側が認めない態度に商船三井側は、というか前述のような船舶保険のシンジケートが怒ったのだと思う。かくして訴訟沙汰になった。前述の通り船舶保険は世界中の保険会社で負担を分散している。
当然のことながら「タイカンは危険」という内部通達もあったと思う。されど訴訟していない段階でポルシェの固有名詞を出すワケにもいかない。電気自動車すべてを対象にするしかなかったんだと思う。
実際、フェリーでバッテリー容量の大きいタイカンが自然発火したら最悪の場合、鎮火できず沈没する。乗客の生命だって奪うことになるかもしれない。私が船会社や船長なら載せたくないです。
コメント
コメントの使い方