日本レース界のレジェンドにして、R35GT-Rの元開発ドライバーとしても有名な鈴木利男氏は、走りの評価にはめっちゃ厳しい人。そう簡単には手放しで誉めるようなことはない。そんな利男氏が思わず「参りました!」と言ってしまうクルマを探すのがこの企画。今回は日本を代表する3台のスポーツカーに乗ってもらうことにした!
初出/ベストカー2023年6月26日号(内容、データはすべて掲載時のものです)
PHOTO/奥隅圭之
レジェンドレーサーにして、元R35型GT-R開発ドライバーとしても名高い鈴木利男氏は、クルマの走りの評価にだけはものすごく厳しい。ちょっとやそっとのことでは「いいね!」しない人なのだ。
逆にだからこそ、利男氏に「参りました」と言わせたいという願望からこの企画が始まったわけだが、過去4回で15台のクルマに乗ってもらって「参りました」はGRヤリスの1台のみ。実に打率は0割6分6厘で、とっても厳しい監督(←利男氏のこと)と、二軍に落とされそうな選手(←BC編集部のこと)という図式になってきてしまった。
そこで5回目となる今回は、現時点で最強とも言える3台のスポーツカーを用意した。シビックタイプR、GRスープラ、フェアレディZ。すべて3ペダルの6速MTで、電動化のかけらもないターボ車ばかり。さぁどうなるか、試乗といこう!
■さあ、試乗開始だ! 利男氏のお眼鏡にかなうモデルは……?
■シビックタイプR
1台目はシビックタイプR。まずはゆっくり走り出すのが利男氏流だが、試乗前の撮影でしばらく走らせて特性をつかんだこともあり、編集担当が助手席に陣取ってからの本格的な試乗はいきなり全開から始まった。
「エンジンがよく回る! パワフルだし、路面の追従性もいいです」(コメントはすべて利男氏)。限界付近で走ると路面の荒れたところでは突き上げがくるのだが、それでもタイヤが路面に吸い付いているのがよくわかる。ボディは動いていても、タイヤががっちりグリップしているから、安心してアクセルを踏める。
シビックタイプRは「コンフォート」「スポーツ」「+R」の3つの走行モードが選べるが、各々明確に走りを変えるのもこのクルマの特徴だ。
「ハイペースで走るなら+Rモードがベスト。スポーツモードでも充分だけど、コーナーの出口でロールの戻りが少し遅れるところがあります。でも、+Rモードならサスペンションがより締まって、コーナーの立ち上がりで躊躇せずアクセルを踏めますね」
スポーツモード、+Rモードのスポーツ性の高さはもちろん、街乗りではコンフォートモードの快適性が光る。
「コーナーの進入でフロントがしっかりと入り、リアに自然に荷重がかかります。リアの動きを気にせず、タイヤのグリップ任せで行けて、とても安心。ボディ剛性、特にフロアの剛性の高さを感じます」
330ps/42.8kgmの直4、2Lターボエンジン、シフトフィール、シフトの自動レブコントロールのレスポンスも含めて「すべてのレベルが凄く高い」と利男氏。結論はすべての試乗を終えてからとなるが、これは「参りました」が出る可能性大。幸先のいいスタートとなった!
■GRスープラ
続いてはGRスープラ。試乗車はもちろん387ps/51.0kgmの直6、3LターボのRZだ。
走り出す前に気になるところがあった。ペダル配置が妙に右側にオフセットしていることとペダル全体の剛性が不足していること。クラッチペダルを踏むと、ブレーキペダルも少し動くのだ。走行に支障があるわけではないし、剛性不足は個体差なのかもしれないが、そんなことを確認してからの試乗となった。
ゆっくりと走り出し、徐々にペースを上げていく。エンジンの音はシビックタイプRに比べて静かである。
「直6のエンジンフィールはやはりいいね。音も軽快で上質感もあって、とても気持ちいいエンジンです」
実は利男氏、2021年にGRスープラでスーパー耐久シリーズ(ST-Zクラス)に参戦。走りをよく知ったクルマだったりするが、レース車と市販車では当然異なるし、レースはATでの参戦だったからMT車のGRスープラに乗るのは今回が初めて。
「ボディがしっかりしているし、ステアリングの剛性感も高い。ただ、意外にボディがちょこちょこ動きます。それとボディの上のほうに重さを感じるし、荒れた路面での突き上げでトントン跳ねる。タイヤの路面追従性はシビックタイプRのほうがよかったね」
これ、相当なハイペースで走っていての話。助手席に乗っている編集担当としては、これだけのコーナリングができれば充分以上じゃないかと思うのだが、利男氏にとっては気になるらしい。
「コーナーに入った時のリアの落ち着きがもうちょっと欲しいです。シビックはリアの心配をしないでいいんですが、スープラは少し神経を使います。パワーに対してホイールベースが短いのが影響しているんでしょうか」
最高出力とホイールベースはシビックタイプRの330ps/2735mmに対してGRスープラは387ps/2470mm。しかもFFとFRだからその違いはかなり大きい。
「路面のうねりに対するボディの動きが大きめで、コーナーに入ってリアに荷重をかけたい時に、一瞬操作のタイミングを合わせてあげないといけないんです。そういうワザを使う面白さがあるとも言えるし、立ち上がりでリアから駆動力がかかるFRの楽しさはあるんですけどね」
直6ターボエンジンは音もフィールも最高に気持ちよく最高評価なのだが、そのハンドリングは少し課題を感じるものとなった。
■フェアレディZ
最後はZ。運転席に座ると、シビックタイプRやGRスープラに比べて足元の空間が広いことに気づく。当然タイト感は薄まるが、ラクな運転姿勢が取れる。ただ、シート座面の前後長が短いのはマイナスポイントで、「ヒザの裏あたりが浮いてしまうので、長距離では疲れやすいかもしれません」と利男氏。
では、試乗開始。405ps/48.4kgmを発生するV6、3Lツインターボは迫力あるサウンド。大排気量のアメリカ車を彷彿とさせるこの音は、軽快さと上質感を演出するGRスープラとはまったく種類の異なるものだが、好きな人にはたまらないポイントとなるだろう。ただ、レスポンスはイマイチだと利男氏は言う。
「アクセル開度30%くらいまでの反応が鈍いですね。普通に乗っている時には感じないんですが、すぐにパワーが欲しい時の応答がイマイチです。そこから先のパワー、トルクは充分なので、ちょっともったいない」
ハンドリングはどうか?
「フロントの収まりがよくないですね。サスペンションの伸び側、縮み側ともにストロークの長さを感じます。もうちょっと締めてほしい。また、ボディ剛性の弱さも若干感じますね」
荒れた路面での追従性がシビックタイプR、GRスープラに比べて劣ることは助手席でも感じられる。
「でも、前後のバランスは取れていますよ。先代モデルはフロントの重さをもっと感じましたが、全長を少し伸ばした(+120mm)のとフロントのトレッドを広げた(+15mm。リアは同じ)効果が出ているのかもしれません」
基本構成は先代からのキャリーオーバーだけにできることにもかぎりがあったと思われるが、そのなかでの進化は果たしたということだろう。
「スポーツカーというよりGTカーとして実力を発揮するクルマなんでしょうね。Z32(4代目)を思い出させるリアのデザインもいいよね」と利男氏。パワフルなエンジンと、Zらしさ満点のデザインで楽しむクルマということなのだろう。
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