なかなか注目されずひっそりと消えていったクルマのなかには、意外にいいじゃないのよという名車も多い。そのなかでも欧州車のような走りで自動車評論家の評価も高かった。今回はあまり知られず、ひっそりと消えたスズキスプラッシュに焦点を当ててみたい。
文/ベストカーWeb編集部、写真/スズキ
■1代限りで消滅した欧州テイスト溢れる小型車
こんなに走りがよかったのかと、感心する日本車は意外に多い。海外で生産された日本車と聞いて、50代以上のおじさん世代が思い浮かべるのはUSアコードクーペ、シビッククーペ、2代目アベンシス、SX4あたりだろうか。
これらのクルマはそこそこ売れたのだが、今回紹介するスズキスプラッシュは、2008年に10月に販売開始した、極めて珍しい海外生産の日本車だった。
スプラッシュはハンガリーのマジャールスズキ社から輸入され、スズキ相良工場(後に湖西工場)でPDI作業が行われた。1L、1.2L、1.3Lディーゼルの3種類のエンジンが用意されているが、スプラッシュは2代目スイフトと同じ、1.2Lエンジンにアイシン製CVTを組み合わせた日本専用のパワートレインが搭載された。
発売された当時、すでにスイフト、スイフトスポーツがヒットしており、なぜ国内で販売されていないスプラッシュが販売されたのか、スイフトとの棲み分けをどうするのか、不思議に持ったものだ。目標月販売台数500台と、あまりに少ないので驚いたのを覚えている。
スプラッシュの発表当時、メーカーに聞いたことがあるが、スプラッシュを発売した理由について、燃料価格が高騰していたこともあり、小型車カテゴリーを拡充する必要性があった、ということだった。
スイフトと喰い合わないのか、棲み分けはどうだったのか、というと、当時、スイフトはスポーティなハッチバックでヒットしていたが、そのユーザー層は男性が7割だった。
いっぽう、スプラッシュは背が高く室内スペースはスイフトより広かったので、女性ユーザーに向けた実用車という位置づけだったので、スイフトとの棲み分けができていた、という解釈。
たしかにスプラッシュのエクステリアを見ると、背が高く、居住性はスイフトより高い。しかも、スイフトと比べると、ガッチリと作られていて、どこかドイツ車のオペルっぽかった。
■女性よりもクルマ好きの男性向け! MTがあったら売れた?
そう、実はこのスプラッシュは、スズキとGMの提携関係から、GM傘下のオペルやボクスホールブランドでも販売されていた。開発はスズキ主導とはいえ、オペルは欧州車基準に合わせるための評価を行っていたので、どこかオペル車を感じさせるのは納得がいく。
意外な一面としてはわざわざルーフ後端を下げて、リアホイール前にフラップを付けるなどして、空気抵抗のCd値は0.32と空力的に工夫を凝らして開発されたこともあまり知られていない。
そのほか、国内専用のスプラッシュの専用装備としては、フロントのプッシュ式カップホルダーをはじめ、シートリフター付きの大柄でしっかりした作りのシート、サイドカーテンを含む6エアバッグ、人数分のヘッドラストと3点式シートベルト(プリテンショナー機構+フォースリミッター機構付き)。
更にはイモビライザー付きのキーレスエントリー、さらに2011年の改良でESPが標準装備となり、低価格ながら欧州基準の装備が採用された。
ではスプラッシュの話はどうだったのか? 当時、スズキが用意していたスプラッシュの広報車に、故三本和彦さんと一緒に乗ったことを思い出した。「ボディ剛性感が高く、足回りはそのせいなのか、よく動く。路面からの入力が大きくたっぷりとしたストロークで、衝撃をしなやかにいなす。
こりゃ目隠しして乗ったらドイツ車と答えるだろうね。MTがあったら欲しかったね」と、走りのよさに感心していた。とはいえ、路面の悪い街中で走ると、正直、足の硬さを感じたものだ。
スズキは女性ユーザーに買ってほしかったようだが、これは明らかに男性ユーザー向けだった。ボディ剛性感、コーナーでのロールの少なさ、ドイツ車のようなスポーティなハンドリングは、スイフトよりいいんじゃないかと、思うほどだった。
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