日本車は欧米のクルマに追いつけ追い越せの精神で世界中のクルマ界を席巻してきた。しかし、どうしても乗り越えることができない壁が存在しているのも事実。それぞれの壁について具体的なクルマの対決を通して、壁は越せたのかどうか? を検証する(本稿は「ベストカー」2013年5月26日号に掲載した記事の再録版となります)。
文:鈴木直也、石川真禧照、片岡英明、渡辺陽一郎
■ハンドリングの壁
背中が見えた、と思い必死で追いかけても追いかけてもなかなか追い越せないのがハンドリング。特にBMWの壁は高い。その牙城は切り崩せるのか?(文:鈴木直也)
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●BMW 3シリーズ vs トヨタ マークX
BMW3シリーズとトヨタのマークXを比べたら? そりゃちょっとムチゃなんじゃないでしょうか?
たしかに、DセグメントのFRセダンという基本的な立ち位置は同一だけど、片や250万円以下から買える割安サルーン。もういっぽうはエントリー450万円からのプレミアムスポーツ。狙ってるユーザー層がかなり違うと思います。
もちろん、パフォーマンスやハンドリングでマークXがぜんぜん駄目ってわけじゃないですよ。
トップグレードの350Sなんか乗るとドえらいパワフルなことにびっくりするし、ハンドリングも予想以上にスポーティ。乗り心地のクォリティが絶望的にダメなことを除けば、コストパフォーマンスの優れたセダンといっていい。
でもねぇ、そこから320iに乗り換えると、ちょっと彼我の差に愕然とするんですよ。
もちろん、ここでいう320iのよさというのは、かなり趣味的な部分のお話です。エンジンのトルク特性が実にナチュラルで力強いとか、ステアフィールとシャシーの反応がものすごくしなやかで心地よいとか、こだわりのない人にとっちゃある意味どーでもいいコトかもしれません。
しかしそういう部分の“質”を大事にする人にとっては、BMWの持っているこのテイストはたまらない魅力。国産車ではけっして越えられない壁なんですね。
それは、たとえていうならケータイで撮った写真と本格的なデジタル一眼レフで撮った写真の違いみたいなもの。サービス版で紙焼きしたらどっちも大差ないんだけど、見る人が見れば圧倒的な表現力の違いを感じとれるってことです。
だから、安いマークXはまだいいとしても、主力価格帯が500万円近いクラウンにはもっと頑張ってもらわなくちゃ困りますネ。
●メルセデスベンツ Aクラス vs レクサス CT200h
メルセデスベンツの新型AクラスとレクサスCT200hはどちらも“プレミアムコンパクト”といわれるちょっと高級なCセグハッチバック。価格的にも日本市場でガチに競合するライバルといっていい。
ただしこの両車、その“プレミアムさ”をどういう風に表現するかについては、かなりベクトルが異なっている。
その点で誰にでもわかりやすいのはハイブリッドカーのCT200hのほうだろう。
ブッちゃけた表現をすれば、CT200hはレクサス版プリウス。プリウスの燃費性能はすばらしいけど、あまりに売れすぎて“ネコシャク”なのが気に入らないし、内装もなんだか安っぽい。
もうちょっとお金を出してもいいから、よりエクスクルーシブでインテリアの洗練されたハイブリッドカーに乗りたいんだよね~」
そう考えているお金持ちがターゲットだ。
いっぽう、新しいAクラスは初代、2代目と踏襲したユーティリティ、実用性を重視したコンセプトを一新し、コンパクトメルセデスを再構築する重要な戦略車種。想定ライバルはもちろんVWゴルフで、この最強の敵とガチでぶつかるクルマとして開発されている。
まぁ、こういうバックグランドを考えるとシャシー性能についてはいわずもがなですわなぁ。
そりゃCT200hはプリウスよりボディ骨格もサスペンションも1ランクグレードアップしている感はあるけど、それでもトヨタで最もポピュラーなMCプラットフォームの一員だから、「乗ってビックリ」みたいなサプライズはない。
対して、新しいAクラスに乗ってみると、プラットフォームにお金がかかってる感がなみたいていのレベルじゃない。正確な操舵フィールやしなやかな乗り心地は数あるCセグメントのベストといっても過言ではないと思います。
この両車、最初からプラットフォームに対する力の入れ具合がぜんぜん違う。このへんが、日本車が欧州車に勝てない大きな壁なんだよなぁ。
●VW ポロ vs マツダ デミオ
VWポロは自他ともに認めるBセグハッチバックの優等生。パッケージングをはじめ、走り、燃費、衝突安全性など、どれをとっても欠点のない優れたコンパクトカーだ。
対するデミオはBセグとAセグの中間モデルといいたいコンパクトなパッケージが特徴。より手軽で経済的なベーシックカーを目指している。
だからだろうか、この両車の場合ハンドリングに関しても「優劣というよりはキャラの違うクルマでは?」というのを実感。デミオが負けているというイメージはあんまりないのだ。
具体的にいうと、コンパクトカーのわりにハンドリングに落ち着きがあって、乗り心地も全体にクォリティが高いのはポロのほう。いいかえると「1グレード上のクルマに乗っている」ような印象がある。
デミオはその裏返しで、乗り心地はややひょこひょこ落ち着かないけど、そのぶんハンドリングは軽快で、下りのワインディングなんかを飛ばすとスイスイ走る爽快さが気持ちイイ。
日本車とヨーロッパ車のシャシーを比較すると、だいたい「日本車はもっと足回りにお金をかけるべきだよねぇ」って結論になりがちだけど、この両車のようにベーシックゾーンまで降りてくると、その差がかなり小さくなってくる。
上手にアレンジすれば、定評あるクルマと五分の戦いをするのも不可能ではないと感じさせてくれる。
余談だけど、ポロよりさらに下の“up!”までくると、もう国産コンパクトとシャシー性能はほとんど大差ないとボクには思えます。
ハンドリングに関して日本車と欧州車の間に高い壁があるのは否定できないけれど、それは決して越えられない壁じゃない。デミオやスイフトなど優れた国産コンパクトカーを見ていると、欧州車の牙城を崩すならこのクラスからだな、そんな希望をいだけるんですよねぇ。
●壁は越えられたのか?
ハンドリング性能に関しては、ボクがクルマ好き少年だったウン十年前からお手本は欧州車。いつかは追いつき追い越せが国産エンジニアの悲願だった。
この頃はボクも、日本車も頑張ればいつかは追いつけると思っていたし、バブル全盛の1990年ころには一瞬追いついたような気もしたんだけど、その後の失われた20年でまた遥かに引き離されてしまった感じ。
最近は、日本車にとってハンドリング性能は永遠に越えられない壁なのかも? となかば諦めの心境だ。
最近思うのは、これは結局需要と供給の問題なのだ、ということ。つまり、欧州では優れたハンドリングに需要がある(いいかえればそれが販売につながる)けど、日本ではそうではない。これが日本車が壁を越えられない最大の原因になっているわけだ。
そういう意味では、イケイケだったバブル期には日本でもそれ相応に優れたハンドリングに対しての需要があったわけで、その当時、日本車のハンドリング性能は欧州車のそれに対して95%くらい、ホントに背中が見えるくらいまで追いつき迫ったんだけど、今はそれが下火になって70%あたりまで大きく後退した感じですなぁ……。
●越えられたか度:70点
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